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南国大尽(2001冬・モルジブ)その2

ミトコンドリアみたいな環礁

13:20、定刻に成田を飛び立ったスリランカ航空機。
モルジブへの乗換えポイント、スリランカの首都コロンボに到着するのは約10時間後、現地時間の20時35分。
日本とスリランカは時差が3時間あり、感覚的には真夜中の到着なのだ。
その間、機内食は2食出ると聞いている。
機内食と言うと、例の仕出し弁当風トレイにムリヤリ詰め込んだ、粗末なメシを何度も食わされてきた。
狭い空間で、旨くも無いエサ状の物を頬張る、まさに「生きる為の糧」でしかない晩餐なのだ。
しかし、今回はビジネスクラス、メシだって期待してしまおうではないか。

ベルト着用サインが消えて程なく、パーサーがメニューを持ってやって来る。
おおっ!!コースディナーになっていて、前菜・メインディッシュ・デザートなどが、それぞれ2種類から選べるようになっている。
「こりは良いかも」
相談するまでも無く、別々に一種類ずつ注文する。
半分ずつ分け合って、両方を味わっちゃう作戦なのだ。
「ディスワン。こりもディスワン」
などと怪しく注文すると、わざと驚いた仕種を見せるヒゲのパーサー。
『全部別々でっか?おもろいでんなぁ。で、飲み物はどないしはりまっか?』
「ビール!!」
これは選択の余地が無い。
我が家は共に、ビールが大好きなのだ。
『ニポンのでっか?スリランカのビールにしまっか?』
「スリランカ!!」
『そりが良いですねん。スリランカのビールの方が美味いですがな。』

大ぶりなワイングラスのような物に注がれたハイネケンに似た感じのビールをオカワリしながら飲んでいるうちに、いよいよメシがやってきた。
大きめなテーブルに順次皿が並べられ、そこいらのレストラン程度の出来栄えである。
カレーベースの肉類などは、いかにもアジアンしてて支持できる。
しかし、いったいどこで作ってきたのか、和食がなんだかヘンなのだ。
例えば、メニューに【CHIRASHI】と書かれた物体は、イナリとノリマキだったりする。
インディカ米のノリマキも珍しく、巻かれている具だって、少なくともニポンではお目にかかれない物ばかり。
【SOBA】は、完全なるソウメンだし。
まあ、どこかの国の珍しい食い物だと思えばマズくもない。
でも・・・・
そこいらの席で美味そうに食ってるスリランカ人、コレが「ちらしずし」だと思い込んでいると、どっかで恥をかきますよぉ!!!

メシを食い終われば、当分やる事が無い。
ヒマつぶしに、いやらしくもエコノミーの食事風景を偵察に行く。
グフフ、お約束の仕出しトレイを並べ、狭い空間で肩身も狭くガチャガチャとナイフなどを動かし、まるでブロイラーの様な集団餌付け状態。
「庶民は大変だねぇ、飛行機はビジネスじゃなきゃねぇ」
などとホザきながら席に戻ると、待っていたのはオミヤゲ攻撃。
機内用靴下、アイマスク、人工皮革のポーチには洗面用具などがギッチリと詰まっている。
ま・まずい、こんなお大尽に浸ってしまったら、2度とエコノミーに乗れなくなってしまうよう!!!

ヒルネをしたり、本を読んだり、アツアツに愛をささやきあったり(ウソ)しているうちにも飛行機はスリランカを目指している。
ディスプレイに繰り返し写し出されているチャップリンにも見飽きた頃、2回目の機内食の時間となった。
ちょ・ちょっと待っておくれ、じぇんじぇん空腹では無いよう。
確かに、最初の機内食からは5時間以上は経過している。
しかし、座りっぱなしでロクに動いていないし、ビールはガバガバ飲んじゃってるし、機内食を見くびって成田で昼飯も食っちゃったし・・・・
朝飯から数えて、本日4回目のメシなのだ。
パーサーに迫られて、ゲップをしながらメニューを選ぶ。
そうまでして食う必要は無いのだろうけれど、所詮ニセ大尽のビンボー人である我々は、出されるメシを拒否する思考回路は持ち合わせていない。
せめて食前酒をビールより腹に溜まらなそうなワインに変えて防御するしかなかった。
何とか食い尽くすと、トドメのケーキがぁ!!
『新婚さんへのプレゼントですねん。』
箱の中のミニ・ウエディングケーキは、今の状態ではイヤガラセとしか思えない贈り物なのだ。

機内サービスのケーキ。ゲップ・・・

そんなこんなのうちに、到着時刻が迫ってきた。
すでに飛行機はスリランカ上空に至り、眼下にはコロンボの夜景がまばゆい。
どこか羽田を思わせる湾岸地帯をゆっくりと降下し、コロンボ空港の滑走路に滑り込むスリランカ航空のA300旅客機。
お大尽待遇の終わりを惜しみながら、最後のビジネス特典である、優先下車でタラップの階段を降りる。
ツアーに申し込んだ際に
「コロンボからモルジブまでの路線は、ビジネスクラスの設定が無い」
と聞かされていたのだ。

夜だからなのか思ったほどの暑さではなく、若干のネットリ感の中、そのままバスに乗せられてターミナルビルに。
ガイドブックなどによるとモルジブ行きの客は、コロンボ空港で自分の荷物の指差し確認をさせられるとの事。
しかし今日は不要だそうで、ただチケットのチェックインだけすれば良いと聞かされている。
モルジブ行きの出発までは2時間弱あるし、慌てる事も無いとノンビリと乗換えカウンターを目指していると・・・・
後方から、怒涛の様に走り来る日本人の集団。
後から降ろされたエコノミー席の皆様だぁ!
彼らは次々と我々を追い抜き、まるで消防訓練でも見ているように、見事に2列に整列している。
そこが乗り換えカウンターだった。

あっという間の長蛇の列、なんじゃこりゃぁ!!
聞いた話しによると、ハイシーズンには予約をしていても乗りっぱぐれる事があるらしい。
せっかく真っ先に降ろしてもらえたのだから、急いで来れば良かったよう。
なにしろ我々も、ココからはキミタチと同じ階級なのだ。
しかし、しかし大丈夫だった。
端っこに「ビジネスクラス専用」と書かれた窓口があり、疑心難儀でそこに行ってみると・・・・
渡されたモルジブまでのチケットには、キチンとビジネスクラスと書かれている。
オマケに、高級待ち合いラウンジの入室証までくれたのだ。
やったぁ!!再びお大尽だぁ!!

規模は大きいけれど、ターミナルビルは日本の地方空港を一回り大きくした程度のコロンボ空港。
免税店の立ち並ぶ奥に、高級ラウンジが有った。
オデコに赤いポッツリを付けたネエチャンに入室証を示して入り込むと、ここも酒類&食い物ご自由にどうぞの空間だった。
なにやら興味を示すオードブルも有るけれど、とにかく満腹のボーマンカン状態で、とても味見をするどころでは無い。
機内で貰ったケーキだって、食えずに持ち歩いている状態なのだ。
しかし、意地でも酒類は少々いただいておかねばならない。
その理由は、今夜のホテルでは酒が飲めないかもしれないからだ。
モルジブは戒律に厳しいイスラム国家であり、リゾート島以外は全面禁酒なのだ。
国内への持ち込みも原則禁止で、税関では入念な検査も有るらしい。
「荷物をわざと粗雑に扱い、中に隠されているビンを割ろうとする」などと、地球の歩き方にも書いてある。

チョボチョボとビールを飲みくつろいでいると・・・・・
館内放送で、我々が搭乗する便名が読み上げられているのに気がついた。
様子を見に表に出ると、民族衣装に身を包んだ係りのオネーチャンが、手に持ったトランシーバーを振り回しながら、早く搭乗ロビーに向えと叫んでいる。
まだ出発までには1時間以上もあるハズなのに。
でも、海外で飛行機に乗り遅れたらヒサンとしか言い様も無く、慌ててお大尽ラウンジを後にする。
例外無く全員に反応してしまう金属探知器を潜り抜ければ、搭乗ロビーはウジャウジャと日本人でごった返していた。
ほどなくバスが到着し、次々と詰め込まれる。
まだ早いんじゃないのぁ?などと思いながらもバスに乗ろうとすると、係りのオネーチャンに追い返された。
『アンタ、ビジネスクラスでんがな。まだ待ってなはれ』

通勤ラッシュのように詰め込まれたバスが数台出て行き、高級ラウンジに残っていた現地人客が顔を見せ始めた頃、やっと我々にも声がかかる。
後続のバスに乗せられて向った飛行機は再びA300、先程降りたばかりの機体に間違い無い。
それは先程と同じ席番号なので、リクライニングの調子の悪さで確信出来るのだ。
それにしても、我々が搭乗した時点でも、まだ出発まで30分以上もある。
とっとと乗せて早めに出発しちまえ!という訳でもないらしく、コロンボを離陸したのは定刻だった。
フライト時間は1時間半程度だというのに、1時間近くも押し込められて出発を待つエコノミー客が気の毒に思える。
帰りのモルジブのマーレ空港、乗換えのコロンボ空港でも、同様な搭乗のさせ方だった。
その理由は判らないけれど、スリランカ航空は、とにかく早めに客を詰め込んじゃいたい主義らしい。
それはそれとして、小一時間もすればそこはモルジブ。
「リゾートが待っているぞぉ!!」
などとハシャぐには少し早かったようで・・・・・
最後の試練が待ち構えていた。

前方から、パーサーが何やら配りながら歩いてくる。
ま・まさか!!!
大当たり。
まさにそれは、機内食のメニューだった。
ま・またですかぁ!!
あれだけ苦しんで食い終わってから、まだ3時間も経っていないのにぃ。
オマケにラウンジでビールまで飲んじゃったよう。
苦しいよう!!食えないよう!!でも勿体無いよう!!
助けを求める目つきで、意味も無くエコノミー席を眺めると、どうやらビジネス客にだけ与えられた拷問らしい。
もちろん強制的に食わされる訳ではなく、辛い思いをしてまで食う必要は全く無いのだ。
繰り返すがホントはビンボーな我が家、食い物を拒否できる育ちでは無い。
協議の結果、一人分だけ注文し、半分ずつ食べるのが精一杯だった。
嗚呼、新婚プレゼントのケーキは、いったいいつに食えるのだぁ!!


まるで妊婦が二人になった様な腹をして、眼下に迫ってきたモルジブの首都、マーレ島を眺める。
島全体にビッチリと立ち並ぶビル群の灯りが、暗黒の海に浮かびあがっている。
新宿の高層ビルから南側の夜景を眺めると、まばゆいばかりの灯かりの絨毯を、円形に切り取った様な黒々とした空間が見える。
その不自然な暗闇の正体は明治神宮と代々木公園で、その切り取った部分をそっくり持って来て海に浮かべてしまった様なマーレ島の光景。
歩いても1時間で一周できる小さな島の中に、7万人も住んでいるとの事だ。
そんなマーレ島のすぐ隣りにある空港だけの島、フルレ島に着陸し、遂にモルジブの地を踏みしめたのは現地時間の23:30。
コロンボとモルジブでは更に1時間の時差があり、日本時間だと午前3:30にもなる長い一日だったのだ。

飛行機を降り、歩いて目の前のターミナルビルに。
リゾート島に渡るのは明朝で、今日のホテルの名前や場所などは聞かされておらず、
「マーレ空港で待っている現地案内人に全てを任せろ」
と言われていた。
ココで迷子になったらヤバすぎるし、とっとと案内人と合流したい。
しかし、わずか先に到着したシンガポール航空機から大量の日本人観光客が降りて来ていて入国審査は長蛇の列。
さすがにここはビジネス特典など無く、ひたすら行列の中で過す。
地球の歩き方によれば、モルジブ人のノンビリペースを非難してはいけないそうで、とにかく待つしかない。

なかなか出てこない荷物を待ったりしているうちに30分は経過し、やっと到着ロビーに這い出す。
観光客やら出迎えの人々でごったがえすロビーで、
「お疲れ様ぁ!!あなたはJ旅行社のお客様ですねぇ?」
などと声をかけてきたのは白髪の日本人のジイサン。
J旅行社の社員と言う訳ではなさそうで、他の旅行社のタグを付けた客も、人ごみの中から一本釣りのように次々と拾い出している。
各社共用の案内ジイサンなのだろうけれど、どういう経緯でモルジブで働いているのだろう。
定年後の安住の地としてモルジブに住み、ヒマつぶしに働いているのだろうか。
まさかリストラでここまで飛ばされて来た元管理職なのだろうか。
そんな事よりも、早く寝たいよう!!

ロビーから連れ出され、そこに待機していた日本人・現地人が入り乱れたスタッフ達によっていくつかのグループに分けられる。
我々のグループは新婚カップル風ばかり7〜8組で、日本製の旧型マイクロバスに詰め込まれた。
アツアツ満載の車内と言うよりも、疲れをにじみ出した港湾労働者輸送バスといった雰囲気が漂う中、伊豆あたりの観光漁港のような場所をバスが走る。
目の前に浮かぶ首都・マーレ島までの交通機関は船しか無く、岸壁には高速ボートやドーニと呼ばれる壁を取り外した屋形船の様な船がウジャウジャと停まっていた。
どの船に乗せられるのだろうかと考える間もなく、バスは港を通過して港湾設備の中を抜け、あっという間にホテルに到着した。
ここは空港だけの島なので滞在するにはツマラナく、乗換えなどの一時滞在専用ホテルなのだろう。
リゾートホテルと言うよりは、どっかのカイシャの保養所のような、高級感を徹底的に排除したシンプルさなのだ。
「いらっしゃいませぇ。お疲れ様ぁ」
日本人を含むホテル従業員がワラワラと出て来てお出迎え。
それぞれに翌朝の出発時刻を告げられ、ヨタヨタと部屋に入り込む。
外観とは違ってキッチリとした調度品が並ぶツインルームは、我が家より広々としていてキモチがいい。
フロが無くシャワーだけなのは、全く水の出ないモルジブなので文句はない。
窓からは海を挟んでマーレの夜景。
明日からのリゾートの為にはソッコーで寝なくては。
こちらでは日付が変わったばかりではあるけれど、日本時間ではもう明け方近いのだ。

リゾートではありません。乗り換え用ホテルです

モルジブの朝。
モルジブには世界各国のリゾート会社が進出し、アチコチの島をリゾートアイランドとしている。
一つの島が一つのリゾートとして独立し、これらの島は原住民の居住する島と完全に隔離されている。
けっして、怪しげな原住民からリゾート客を守る為では無い。
敬謙なイスラム教徒である国民を、怪しげなリゾート客から守る為なのだそうだ。
従って、原住民の島への渡航は、政府の許可が必用らしい。
また、モルジブを自力で自由に旅行するのも簡単ではない。
各リゾートの価格設定が個人客には異常に高く、現地で飛び込み予約しようにも、島に渡る公共交通機関が存在しない。
船などを自分でチャーターしなければならないのだ。
そんな状況だから、いくつかの島のリゾートを回遊する事は難しく、どっかのツアーに申し込んで、1箇所のリゾートに滞在するのが一般的だ。
もっともツアーと言っても、それぞれの希望するリゾートにバラバラに散っていってしまうので、けっして団体旅行という雰囲気ではない。
各リゾートの料金は、その環境や設備によって雲泥の差がある。

それぞれのリゾートを目指す観光客が行き先ごとに集められ、早い組は5時頃からマイクロバスに乗せられて出発していく。
リゾートまでの距離や料金レベルによる交通手段の違いにより出発時刻が異り、我が家の出発は最も遅く、10時頃の予定だと言われた。
寝不足とは言え、出発までを寝て過すのは勿体無い。
ビンボー根性丸出しで、日の出と共に起き、さっそくホテルの周りを探索なのだ。

ホテルの中庭を挟んで、小さな砂浜が見えた。
砂浜といっても砂ではなく、小さく砕け散ったサンゴが堆積している。
そんな波打ち際に小さなエイが漂い、とにかく海の奇麗さと言ったらただ事では無い。
海沿いのプールにはキモチヨサそうなベンチが並び、保養所風といってもナメてはいけないトロピカル感なのだ。
おもわずリゾート気分にコーフンする我が夫婦。
しかし、このくらいの事で喜んではいけなかったとは、後ほどのホンモノのリゾートで知らされる事になる。

フラフラと散歩を進めると黒ネコを発見。
モルジブ原住ネコの出現に喜び、後を追って歩く。
ネコに連れられて巨大倉庫の前に回り込むと、それは大っきいプロペラ機が停められた飛行機格納庫だった。
「こんな所に飛行機が??どうやって持ってきたんだ??」
などと思いながら前進すると、妙に幅の広い道となり・・・・・
おおっ、ココは滑走路に違いない。
昨日、スリランカ航空のA300で着陸したばかりの、立派な滑走路に進入してしまったのだ。
滑走路と道路との境界には柵も何も無く、ソソクサと道路に逃げ戻る我々の姿を、格納庫から出てきた係員がジッと見ていた。
日本なら逮捕されても仕方が無い行動だったのに、係員は怒るでも慌てるでもなく、そのまま建物に入っていってしまった。

ふいに原住ネコ2号が現れ、先程のクロ猫と激しいネコバトルを始めた。
思わず見やると、先程の格納庫の係員が再び顔を出し、真剣な眼差しでネコのバトルを見つめている。
彼にとっては、滑走路を歩く観光客よりも感心のある出来事らしい。

な・なじぇココにヒコーキが!!

ホテルに戻ってロビーのソファーで一休み。
おもむろに隣りに座ってきたのはモルジブ人の案内係で、大あくびしながら流暢なニホン語で話しかけてきた。
「ネムイねぇ・・・・」
そこからは英語で、さらにダベりが続く。
『あんたら、何時の出発でっか?』
「10時ですぅ」
『ほ・ほんまでっか?そりゃ、行き先はヒルトンですねん』
「そうですけどぉ」
『オカネモチでんなあ!!!』
そう。
我々が滞在する予定のモルジブヒルトンは、モルジブでも最高級クラスのリゾートだった。
ホントはボンビーな我々は、けっして
「一番高いヤツをぉ」
などと、イヤラシく成金的に注文した訳ではない。
「せっかくだから水上ヴィラに泊まりたい。しかも、コンクリ作りの風情が無いヤツじゃダメ!!」
なんて感じでイロイロとワガママばかりホザいていたら、該当するのがヒルトンだけになってしまったのだ。
リゾートまでの足は船ではなく水上飛行機で、そんな訳で一番ノンビリとした出発だったりもする。
水上飛行機とは海面から離発着できる飛行機で、車輪の代わりに業務用ボールペンのフタを超巨大化させたような浮きがついている。
滑走路が作れない小さな島に渡る手段としては、最高級な乗り物に違いない。
船よりも眺めは良さそうだし、こりは楽しみなのだ。

水上飛行機。カッコイイ!  水上飛行機。早く乗りたい!

定刻にバスが迎えに来る。
我々の他には新婚カップルが一組だけ。
昨日から見掛けた夫婦で、しかしアツアツどころかロクに会話もしていない。
たまに業務連絡を交すだけなのだ。
「きっと見合い結婚し、式が終ってソッコーで来たんだぜ」
朱蘭さまとそんな事を囁きあいながら、バスに揺られて水上飛行機のターミナルへ。

桟橋がいくつも並んだ観光船乗り場のような場所に、飛行機が何機もプカプカと浮かんでいる。
オモチャの飛行機を風呂場に浮かべている様なフシギな光景を眺めているうちに
『はぁい。ヒルトンのお客様、専用ラウンジで待っていなはれ!』
おおっ、今日もお大尽待遇。
クーラーの利いた部屋でのドリンクフリーも有り難い。
ギャハギャハ騒いでいるのはダイビング客らしい日本人ネェチャンのグループ。
飲み物ごときにやたら注文がうるさいのはシンガポール?香港?の中華系の家族連れ。
カメラを手にして、水上飛行機の離発着を追い回すのは朱蘭さま。
フリードリンクと言いながらビールが置いてない事に嘆き、ブチブチと嘆くのはワタクシ。
そして時折聞こえる、見合いカップルの業務連絡。
『どうぞ乗りなはれ。準備できましたがな』
いよいよ搭乗となった。
スキを見せた見合い夫婦を巧みにかわして先頭に立ち、一番良い場所に陣取ろうとするワタクシ。
日本を離れても意地汚さは変わらないのだ。
そして一番前の座席をゲット。
コックピットとの間にドアは無く、前が丸見えなのだ。


現れた操縦士は、スキンヘッドにサングラスといった巨大白人。
半袖のワークシャツに下は短パン、そしてなんとハダシなのだ。
横に座ったサンダーバード風の副操縦士、こちらもハダシだった。
おびただしいスイッチ類を二人がかりでいじりまくると、ゆっくりとプロペラが回り始める。
同時に、室内用扇風機も回り始めたのには思わず笑う。
爆音の割りにはゆっくりと海面を滑り、このへんはフツーの船に乗っているような感覚だ。
沖合いに出ると徐々に加速し、何とも言えない振動と共に、海面が後ろに流れて行く。

今まで乗った海上の乗り物で一番速かったのは、佐渡島に渡る「ジェットホイール」と名乗る水中翼船で、最高時速は80km。
速度があがり、客席についているデジタル速度計が77.7kmを示すと、客席から「おぉ・・・」などとドヨメキが起こったりした。
もちろん、こちらの飛行機の方が断然早い。
そんな事に感心している間にも、コックピットでは二人がかりでレバーを押したり引いたり、ペダル状の物を交互に漕いだり、んもぉ忙しそうだ。
プロペラの爆音は更に激しくなり、「もうこれ以上ダメ!!」といった感じの壊れんばかりのイキオイに達した時、ふっと振動がなくなった。
離陸したのだ。
もっとも海上なので、「離陸」と言わずに何て言うのかは判らない。

操縦士と副操縦士、どちらも完全にハダシなのです

昼間に見てもビルだらけのマーレ島。
滑走路だけが海面に浮かんでいる様にしか見えない、巨大空母のようなフルレ島。
そしてポツポツと見えてくる周辺の島々。
水深によって見事に色の違いを見せる海、そこに見渡す限り散りばめられた環礁や島々は、ドーナツ状だったり楕円形だったり。
青い海を背景に、まるでアメーバーやらミトコンドリアの大群の様だ。
そんな小さな島々にも小さな桟橋やこじんまりとした集落が見受けられるのもあり、小船で訪問したら大歓迎されそうな明るい漁村といった風情なのだ。

いくつかの雲の中を出入りし、観光パンフレットで見慣れた形の島影が見えてくる。
やったぁ!!我らがヒルトンのある、ランガリー島に違いない。
環礁の外側に打ち付ける白波、その内側は珊瑚礁という天然の防波堤に守られた穏やかな海、その中央に浮かぶ島から突き出して海上に鈴なりに連なる水上ヴィラ。
南国での我が家は近いぞぉ!!!

見えてきました! モルジブヒルトン!
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