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飛島まんすけ(2003GW・飛島)その1
〜 孤島に向かう連絡船には、『都会の常識』を持ち込んではいけない。
そして上陸後は、如何なる『不可解』な、『理不尽』な境遇に晒されても、それに憤慨し、我が身のフビンさを嘆いてはいけない。
島民の側から見れば、気まぐれに訪れ、そして去っていく我々の行動こそが『不可解』『理不尽』であり、その理解に苦しんでいるのだから 〜
と言うわけで、行ってきました飛島へ。
そこは、釣りヲタ・鳥ヲタしか行かないような、日本海に浮かぶ孤島です。
どちらにも該当しない我が家が目指してしまったのは、今となっても正当な理由が見当たりません。
とにかく、行っちゃったのです。
飛島に向かう『ニュー飛島丸』は、勝手な予想に反して、チンケな漁船風ではありませんでした。
定員300名ほどの双胴船で、「空中に浮かない水中翼船」のような異形な船でした。
そしてこの船は、ロクに波も無いのにヒジョーに揺れるのです。
ウイリーでもしているかのごとく後方荷重な状態で、ぶおんぶおんと船首を激しく上下に弾ませ、それでいて全然速くなかったりするのです。
船内の歩行すら困難な上下左右の躍動に晒され、多くの乗船客達は、次々と熱いものがこみ上げている状態でした。
やがて細長チンケな島影がグングンと近づき、いよいよ上陸です。
島内でのキャンプは禁止であり、荷物も重くなるんで我が家も旅館泊です。
もっとも、コッソリとキャンプをしようとすると、エラいメに合う事が後に判明いたしました。
それは、島での食生活に起因します。
この島では、全部で十数軒ほどの旅館・民宿が存在し、いずれも海の幸を売り物にしております。
確かに、宿のメシはゴージャスです。
アワビやサザエなどふんだんに登場し、刺身や焼き魚なども充実し、ぷりぷりイカソーメンなどは主食の如く毎回出てきます。
朝飯でさえ、そこいらのチンケな旅館の晩飯を上回ります。
この世のシヤワセとは、この事です。
しかし、問題の本質は、昼飯の時に発覚します。
島内には3件の食堂があるハズなのですが、営業実態があるのは『西村食堂』という一軒だけで、全部で15〜6席くらいの店構えでしょうか。
そこであまり選択の余地の無いメニューを食うしかないのですが、とにかく事実上唯一の食堂なので、観光客も地元民も入り乱れて大混雑なのです。
「時間をずらせば良い」
などと考えるのは間違いで、油断してるとあっというまに閉まってしまいます。
この辺は西表島と似ていますが、この島では、他に食い物が入手出来ないのです。
3軒ほど存在してる商店は常にキッチリと戸が閉ざされたまま、まるで北朝鮮のデパートのごとく、ガラス越しに商品を眺める事しか出来ません。
観光客の知らない、ヒミツの合言葉でも口にしない限り、これらの商品を購入する事は不可能なのでしょうか。
もっとも商品と言っても、袋菓子などの乾き物とカップラーメンしか見当たりません。
賞味期限がありそうなものは皆無です。
また、酒屋のカンバンが一つだけあるものの、その姿は開かずのカーテンに隠されたまま。
従って、酒類は、旅館が用意するプレミア価格の酒を買い求めるしか手段がありません。
明らかに営業しているのはプレハブ簡易型みやげ物屋だけで、土産物の他には簡単な菓子類程度しか入手できません。
しかし疑問を感じるのです。
島民にとって、新鮮な魚介類の入手は簡単だとしても、島で生活する為には米だって肉だって野菜だって必要なハズです。
でも、それらを売っている店が全く存在しないのです。
本土に買出しに行こうとすれば、日帰りはできない島なのに。
なにか怪しげなシンジケートでも存在するのでしょうか。
結論として、キャンプをしようにも、本土から食材を抱えてこない限り、飢えに苛まれる事になるのです。
従って、我々観光客は、旅館と西村食堂に逆らっては、健康体で本土に帰る事すら困難なのです。
しかし驚くべき事に、この島での旅館および西村食堂による観光客支配は、食生活以外にも及んでいたのです。
島には、公共の交通機関は存在しません。
レンタカーもありません。
もちろん、旅館などにはクルマはあります。
しかし、クルマが通行可能な全ての道を、枝道を含めてキッチリ走っても、10分と掛からないでしょう。
そんな状況なので、バスやレンタカーなどが存在する意味が無いのです。
観光客に用意された徒歩以外の移動手段としては、レンタサイクルがありました。
沢口旅館が貸し出す有料チャリと、酒田市が提供した観光用無料チャリの2種類が存在します。
沢口旅館のチャリは、「2時間で300円・6時間で600円」といった金額で、変速機付き、無し、怪しげなカマキリ仕様ハンドル車など、テキトーにどっかで拾ってきた様なママチャリばかりがズラっと並んでおりました。
好きなものを選んで借りれますが、いずれにしても、けっこうボロいです。
しかし、
「整備不良による事故の責任は一切とれない」
などと説明され、かなりイイカゲンです。
酒田市提供の無料チャリは、車種が統一された変速無しのママチャリです。
沢口旅館のほど、ボロくはありません。
貸し出し場所も、港から近いです。
どうみても、こちらのチャリのほうが良さそうです。
なんたってダータだし。
しかし、そうは簡単にいきません。
酒田市が、チャリ貸し出しの為の職員などを配置する訳が無く、管理を委託されているのは、あの西村食堂なのです。
チャリは西村食堂の敷地内に留められていて、この食堂の許可無しには持ち出せません。
「何かココで食べてかなきゃ、チャリが借り辛い」
かどうかは個人個人の主観によりますが、食堂のオヤジから許しを得なければならない事には変わりありません。
「すいませぇん。チャリを借りたいのですが・・」
「アイヨ、どうぞ。ところで、さざえカレー美味いよ。どう?」
などと言う事になります。
もちろん、オヤジはその様なセリフを口には出しません。
目と態度で訴えてくるだけです。
もっとも、他に昼飯が食える場所など無いので、結局は西村食堂で喰う事になるのですが。
ちなみに「さざえカレー」とは、読んだまんまのカレーです。
マジで、サザエが入ってます。
サザエ独特のコリコリ感がたまりません。
しかし、食う前から容易に想像がつく事ですが、味は完全にカレーに負けてます。
まったく、サザエの味などする訳がありません。
せっかくのサザエが、ハッキリいって勿体無いです。
ハズしちゃったとは言え、競争相手が居る訳ではないのに、それなりの創意工夫をしている点だけは評価に値するのかもしれません。
そりでは、チャリで島内を探索してみる事にします。
酒田からの船が着く勝浦集落は島の東海岸にあり、旅館などで賑わっております。
「賑わう」といっても、あくまでも他の集落との比較です。
ズラっと並んだ漁船や、ンマそうに乾された干物類を眺めながら東海岸を北上すると、境界が判らないまま中村集落に突入します。
ここにも若干の旅館と、島内唯一の学校があります。
小・中共用の学校なのですが、この春、一人の中学生の卒業によって、まったく生徒が居なくなってしまったそうです。
この唯一の卒業生が本土の高校に進学してしまったため、島で一番若いシトでも40歳台などという状態に陥り、新たにこの学校に生徒が入学するメドは全く無いそうです。
さらに東海岸を北上すると、心臓破りの長い坂を登る事になります。
ヘリポートがある三叉路で一休み。
直進して再び海のほうに降りていけば最後の集落である「法木」に辿りついて道は行き止まりになりますが、
「そこはホントに何も無い」
との事なので、行くのはやめました。
くどいですが「何も無い」といっても、あくまでも他の集落との比較です。
三叉路を左折して更に坂を登る道を選びます。
これは島の中央部を南下し、島の南端で再び海岸沿いに降りて勝浦港に至る、農免道路です。
イメージ的には、南北に縦長な島の中央を、長手方向に真っ二つに分けるように走る道です。
この農免道路から西側は、道路も住民も存在しない無人の地なのです。
島の中央部は平べったい台地状になっていて、それが島の唯一の平地だったりするので、いたる所に畑などが点在します。
一つ一つの規模はチンケな畑ですが、そんな中を直線的に抜ける八幡崎への枝道などは、まるでプチ富良野といった風情です。
もちろん一瞬にして終点ですが。
ここいらにはカラスは居ないようですが、ウミウが畑を荒らすのでしょうか。
畑のハジッコなどに、首吊り状態のウミウがぶら下げられていたりします。
見せしめの晒し者なのでしょう。
作り物ではなく、ホンモノなのです。見てられません。
また、海岸沿いには、魚のヒラキやイカに混じって、明らかに鳥のような形状のモノの干物がぶら下っているのも目撃しましたが、その正体は判りませんでした。ブキミです。
さて、無人の地である島の西半分ですが、けっして人外大魔境といったオドロオドロしさはでありません。
サワヤカな林が広がる中を、遊歩道が縦横無尽に駆け抜けております。
遊歩道は未舗装ですが、ひどい悪路といった感じでは無く、観光案内板もきちんと整備されてます。
その案内板を見ると、階段のある箇所はキッチリと色分けされていて、チャリで階段を避けて走る際には、とても心優しいサービスです。
バイク乗りであれば、この遊歩道をバイクで走ってみたくなるのは必至です。
適度にアップダウンがあり、林間から垣間見える日本海の眺めも美しく、海に迫り出す荒崎の千畳敷風の海岸、まんまるな御積島、トンガリな烏帽子群島などの奇抜な風景が満喫できるのです。
階段だって楽勝な箇所が多く、とにかく変化に富んだコースなのです。
しかし、その実現は困難でしょう。
遊歩道の走る地域には島民の姿などありませんが、島民の何倍にもあたる人数のバードウオッチャーが、ウヨウヨと蠢いているのです。
彼らは、なぜか似たような帽子をかぶり、やたらとポッケがついているチョッキを着ているのが共通の特徴です。
基本的に徒党を組み、あるいは単独で、まるでバズーカ砲のような巨大望遠鏡を持ち歩き、ホントにどこに行っても居るのです。
彼らは極端に静寂を求めているようです。
チャリで横を通るだけでも、汚物でも見るような目つきで睨みつけてきます。
そんな彼らに
「遊歩道をバイクで走ってるヤツがいる」
などとチクられようものなら、もうタイヘンです。
なにしろ小さな島なので、そのまま走り逃げなど出来ないのです。
結局は旅館か港でとっ捕まり、逃げきる事は不可能でしょう。
漁師に捕まったら、干物にされるかもしれません。
飛島では、マリンレジャーを楽しめます。
まずは海水浴。
勝浦港の奥に、そこそこの砂浜があります。
トイレや脱衣場のようなモノまで完備されています。
ちょっとした入江なので波も穏やかなのですが、ある意味、とてもキケンな場所です。
十分に注意して泳がなければ、とてもヒドいめにあうのです。
何がキケンなのかと言えば・・・・
ここは「野鳥の島」なのです。
ウミネコがすごい密度で群がっているのです。
海水浴場のすぐ脇の岩肌が、そいつらのフンで変色しているほどなのです。
まるで蚊柱のようにウジャウジャと飛び回るウミネコが容赦なく絨毯爆撃をしてくる中で泳がなければならないのです。
次に釣り。
海づり公園などと称するモノがありますが、実態は、巨大イケスの釣堀だったりします。
中に入るだけでジェニを取ります。
釣りをやらない我々にとっては、なんだかあまり面白そうではありません。
そこいらの防波堤でも、釣りをしてる人々が見かけられます。
サオを持って無料チャリを漕いでいる人も多々見受けられますが、あれは観光客なのでしょうか。
それとも島民が勝手にチャリを使っているのでしょうか。
いずれにしても、漁業権がどうなっているのかは判りません。
そしてダイビング。
いわゆるフツーのダイビングスポットのツモリでは、ここでは潜れません。
ダイビングショップなどが有るわけではなく、ただ単に漁船のオッチャンが潜るポイントまで連れてってくれるだけみたいなのです。
従って、用具のレンタルもなければガイドもつきません。
全て、自己責任で潜る事になるのです。
きらびやかなサンゴ群、イルカとの戯れ、マンタとの出会い・・・・
ありません。まったくありません。
サンゴは細々と有るそうですが、何と言ってもココのウリは「サメ」なのです。
すぐ沖の御積島や烏帽子群島のあたりの海底の洞窟に、ドチザメとかいうグウタラなサメが、ウヨウヨと隠れ住んでいるそうなのです。
颯爽と泳いできてニンゲンを襲うような事は無く、メンドクサそうにダラダラと洞窟の底に折り重なるようにタムロしているそうで、なんだか面白そうではあります。
さて、我が家がチャレンジしたのは観光船です。
飛島一周コースと御積島までの往復コースが用意されております。
飛島一周コースが一人1200円、御積島が1000円であり、かなりお手ごろな料金設定です。
でも、はたして観光船が出航してくれるほどに客が集まるのでしょうか。
なにしろ貴重な観光客の大半は、バードウォッチャーなんですから。
しかしダイジョーブなのです。
キッチリと観光船は出るのです。
「乗客が5人以下でも、5人分は頂きます」
などと宣言していて、なかなかしたたかです。
出航さえすれば、客数とは関係無しに売上が確保される仕組みなのです。
乗船客が少なくてもダイジョーブなのは観光船側であって、乗船客側はダイジョーブをカネで買う事になります。
観光船の出発時刻などは、どこを見ても書いてありません。
また、それらしい事務所も、連絡先の電話番号さえも見当たらないのです。
それでは、どうやって観光船の乗船を申し込めば良いのかというと・・・
全て、旅館が窓口なのです。
旅館に支配される仕組みは、ここでも生きていたのです。
コレには、さすがの西村食堂も関与してません。
我が家も、旅館のオカミに頼みました。すると、
「午前中はダイビング客が入ってる。午後からならOKだって」
という返事です。しかし
「ちょっと波が高めだから、出航できるかどうかは、その時間になって見なければ判らない」
などといった状況です。
午前中は荒崎あたりを散策し、選択の余地も無く西村食堂で昼飯を食い、さて観光船は出るのでしょうか。
再び、オカミがデンワします。
しかし留守電になっちゃっててなかなか連絡が取れず、気を持たされます。
島で唯一のグラスボートを頼んだので、他の船ではイマイチなのです。
何度目かに、やっとオカミのデンワが繋がりました。
「出航できるって。よかったわね」
「そうですか。で、何時にどこに行けば良いのですか?」
「沢口旅館の前あたりの岸壁のところ。時間はアンタらの都合に合わせるって。」
ラッキー!!!って、おいおい・・・・
それって我が家の貸切かい?
5人分も取られちゃうのかい?
ど・どひゃぁ・・・・
とにかくとにかく、指定された時間に、指定された岸壁に出向いてみますと・・・・
そこに係留されているのは、数隻の小さな漁船とクルーザー風の船。
どちらの船にも人の気配はありません。
果して、サワヤカなガイド風の船長が、チャリにでも乗って登場するのでしょうか。
もしそうだとしたら、クルーザー風が良いに決ってます。
まあ、どちらかと言えばという程度ですが。
でも、どっちも明らかに、グラスボートではありません。
来ました来ました、やって来ました。
防波堤の向こうから、一隻の船がやって来たのです。
アレかい?まさかアレかい?
どう見たって漁船だぁ!!
農林水産省公認といった感じの、完全なる漁船だあ!
でも、まだまだ判りません。通りすがりの漁船かもしれません。
でも・・・・
あきらかに、我が家を目指して一直線に突き進んでくるのです。
船長らしきオッチャンが、満面の笑みを浮かべながら。
しかも、なんとも言えないシワクチャのジェロニモ顔で、なんだか怖かったりするのでした。