AZの金銭征服
女と金とよく並ぶ。金ができれば二号をもつ、アルサロで清純なる(?)乙女を抱く。これは世のオトコ族の定石である。オカネの本がすめば、オンナの本というのが自然ではなかろうか。
実を言うと『AZのエロス』というオンナの本をもう書き出している。ご婦人がたにとってはこの本をよむと、オトコの本質がわかるから、男を攻略したり、ワナにひっかけるのに大変役に立つ。だから、オトコもオンナもどうか私の“AZシリーズ”第六巻『AZのエロス』が出来るのを待ちかまえて下さい。そして、読んで、腰をぬかして下さい・・・。
サヨウナラ、また逢う日まで・・・。
汽車は出てゆく。サメザメとハンカチをぬらす涙の雨。別れはつらいものである。私も、この金銭征服の本とサヨナラをするのにあたって、一抹の哀愁を覚える。私のイノチのひとひらが落葉のように散ってゆく。来年の春はまた新しい緑の芽が出るではあろうが。
セックスの本が出ると、あなたはまた新しい私と対面する。
「ああ、こんなヤツだったのか。それじゃ、もう少し仲良くしとけばよかった」
そう思う人もあるだろう。
本を一冊書くには結構ひまがかかるものだから、本から本へのジャンプは相当の距離である。次の『AZのエロス』を書いているあいだ、私は大きな変貌をとげるだろう。そして、あなたも大いに変わるのではないか。
その日を楽しみに待とう。それではもう一度サヨウナラ。別れているあいだ、少しでもアイダをつなげておきたかったら、みんなの雑誌『AZ』でも読んでいて下さい。
いちばんあとで――
出版社の都合でこの本は“AZシリーズ・1”と銘打つことになりました。この番号は私の執筆順ではないので、実際は「第五作」なのです。混乱するといけないので、念のため。
――1960.12.17
再版あとがき
世間に名の通った出版社からAZの本が出たのは、この『AZの金銭征服』が初めてであるが、幸いにして初版は世の好評を得ることができ、刊行後半月にしてもう版元には残部がないという話である。
ここに再版を世に送るにあたり、AZという運動の本質がどういうものか、いま私が考えていることを摘記したいと思う。
AZは単なる思想運動ではない。もちろん、ただの文芸的な執筆活動とも違う。文学の分野では、たとえば大正末期の白樺派の運動などは、たしかに狭い文学愛好者グループの垣根を打ちやぶって、それまでになかった広い層の読書界にうったえ、当時の進取的な青年に深い印象を与え、その生涯を通じて消えないようなかぐわしい記憶を残した。だが、AZは単なる人生論以上のものである。それは現実生活の微細なすみずみにわたって、生きる上でのエネルギーとコツのごときものを与える。それが一つの新しい「思想」にすぎないならば、たかだか頭脳や心情の内部におこる束のまの興奮と快感に終るだけであろうが、これはこんご続々と出されるAZの別の本によって、ますますうなずけるようになるものと信じている。
1961年2月 著 者
1961年1月5日 第1版発行
1961年3月5日 第2版発行
発行者 岡本正一
印刷所 東京印刷
発行所 霞ヶ関書房
定価 150円