『AZ』13号
 さあ、あとは付録として、今池尻の自宅で週二回治療しているS君(19歳)の経過を報告する。
 1.私のところにくる前は、『信念の魔術』的方法、催眠術、ドモリ矯正法、手のひら療法、ヨガの諸大家の所を歴訪、本も沢山読んだ。
 2.症状は対人恐怖症、人前に出ると口もとがこわばるので、白いマスクを掛けねばならない。ドモってうまく話せぬ。種々の強迫観念がある。
 3.面接後、火木の夜八時から一時間、治療をおこなうことにした。今までにしていたことは無理にやめなくてもいい。そのまゝでかよってきて下さいという。
 4.ニ、三回治療後、勤め先(新聞専売店)で、そこのイタズラ坊やが新聞整理の邪魔をしに来ると、「ダメ!向こうに行ってなさい」が素直に出るようになった。(前は言いたくても言えず悶々としていた)
 5.同僚から「バカだな、おまえは」と言われると口答えもできず、ヤッパリソウカと鬱々とするばかりだったが、次第に派手にケンカもできるようになった。
 6.五回目ぐらいから、容貌のハッキリした変化が認められた。開始前は茫乎としてまとまりのない感じだったのが、不思議に目鼻立ちがハッキリして、ちょうど別人の顔がマスクを取って現れたような印象であった。「新しい顔」は切れ長の目をした古代的な、言わば高貴の武士のような相貌だった。
 7.感情も生き生きして、電話の声も変ってきてテキパキした語順になった。
 このS君の治療はまだ七回目である。この治療が終わったら、スブド同胞会のほうに送ってさらに深く霊的研鑽を積んでもらおうと思っている。
 私のこの「方法」は本質的には治療ラティハンであるが、説明やアプローチとしては深層心理学的手段(ランドーン法のごとき)にたよっている。これから発展してくる“ノイローゼ・クリニック”は宗教臭のない近代的なものになるだろう。
5 詩 五 つ
この役まわりで
この役まわりで行こう
私は
好きや嫌いではなく
もう仕方のないことなんだから

みんな誰にだって
役廻りというものはある
しかしサボッている役者が
こんなに多いんだから
せめて私ぐらい
この役まわりで行こう
自分が自分に
自分が自分になるだけのことなんだけど
どうしてみんな
自分でないものに
なりたがるんだろうな
聖者
聖者が街をあるいていた
みんなゾロゾロあとをついて行った

涙をボロボロ流していた
胸をドンドン叩いていた

にっこりしているのは
その聖者だけだった
皮肉屋
皮肉しか言えないのは弱いやつ
自分をひそかにいじめている
無と有
無にいつも
帰ってゆくだけ
その無が
だんだん深くなって
いつも しょっちゅう
無だらけになってしまう

有は無のこやしを喰って
日ましに
途方もなく
ふとってゆく
そのうちに世界中が
いや 宇宙中が
有になってしまう
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