デヴギリは数日間おもい悩んだ末、近くの村に住んでいた夫の母親のもとに相談に行った。そこで、二人の息子を義母にあずけ、ガンガが苦行をしている森のなかに入って行った。彼女は夫のために料理をし、あらゆる手段で夫に奉仕をした。ところが、ガンガはそれを喜ばず、妻が自分の傍にいることは修行の邪魔と感じた。彼のほうから黙って妻から身を隠し、どこか別の場所に行ってしまおうと思った。ところが、勘の鋭いデヴギリは、そういうことがないように絶えず夫を見張っていた。数ヵ月が経過した。産み月が迫って、デヴギリは疲れを感じてきた。或る朝、彼女が目を覚ましてみると、夫はその古い寺にいなかった。彼女は必死に捜したが、夫の姿は見当たらなかった。


6.サイの誕生

 朝から食事をせず、彼女は疲れ果てていた。急に陣痛に襲われた。彼女は川のそばに降りて、ある樹の下に坐った。そこで、丈夫な男の子を無事に産み落としたのである。彼女はそばの石を拾って、臍の緒をこすり切った。それから、ゆっくりと川のほうに歩いて降りた。赤子を川の水で洗い清めてから、近くの小山に登って、どこか近くの村に通じる道を捜した。
 もう夕方になっており、太陽は西に沈みかけていた。それでも、息を切らしながら彼女は丘の上に登って行った。ところが、彼女は突然足を滑らせて、ころがり落ちた。赤子は母親の腕から飛び、反対側の道の上にまで落ちた。デヴギリは川に落ちて、溺死した。
 ちょうどそこに、若い農夫が牛車を大急ぎで走らせて来た。暗くならないうちに、自分の村に着こうと考えていたのである。彼の傍らには、結婚したばかりの若い妻が乗っていた。急に、道路にころがっている赤ん坊の姿が目に入った。牛車を止めた農夫はその子を抱き上げた。生まれたてのその赤子はとても愛くるしい顔をしていた。赤ん坊は気を失っているようだったが、彼はその子を妻に渡した。二人にはまだ子供がなく、若妻はその子を一目見て、大喜びをした。彼女があやすと、赤子は息を吹き返して、笑い始めた。夫婦は胸をつかれる思いだった。二人はこの子を養子にすることに決め、バブ−という名前を付けた。


7.学校を嫌った少年

 (バンガロ−ルにはバブ−という名前のタクシ−会社がある。そこの社長はサイババの帰依者で、ホテルも経営している。バンガロ−ルに行ったら、まずサイババがどこにいるかを、このタクシ−会社に訊いて、それからバブ−のタクシ−でホワイトフィ−ルドかプッタパルティに行くとよいと思う。バブ−がシルディ・ババの幼名だったとは、私も知らなかった。バブ−の電話番号はドメスティックつまり国内航空のバンガロ−ル空港内で尋ねれば分かる。)

 数年経ってから、やはりブラ−ミンだったその農夫は他界した。遺産として、その妻に充分の土地を残したので、未亡人はバブ−を育てるゆとりがあった。その子は亡き夫の唯一の忘れ形見とも言えるものだったから、彼女は真心をこめてバブ−を育てた。
 バブ−は大きくなったが、学校に行きたがらず、勉強が嫌いだった。一日中、彼は村の子供たちと遊び回っていた。養母は学校に行くように懸命に説得したが、バブ−は少しも言うことを聞かなかった。
 ある日のこと、バブ−は他の子たちとおはじきで遊んでいた。彼はほかの子供たちから、おはじきを全部巻き上げてしまった。少年の一人は、もう一度勝負したら自分のおはじきを取り戻せると考えた。
 そこで、その少年は自分の家に戻って、おはじきを捜した。ところが一つも見つからない。そのとき、礼拝室に置いてあった一個の小さい「石」が目に入った。それは、おはじきとしては見るからに大きなもので、その家ではシャリグラム(ヴィシュヌ神の象徴)として拝んでいたものだった。そのため、少年はそれを手にするのをためらったが、最後にこう考えた。「これを使ってもう一度バブ−と勝負をすれば、負けた分を取り戻せるぞ。そのあとで、ソッとこの石を元に戻しておけば、誰にも分からない。そうしよう!」
 それを持って、少年はバブ−のもとに飛んで戻った、勝負を挑んだところ、バブ−は気が進まない様子だった。何度もせがまれるので、仕方なくバブ−はもう一度おはじきをすることにした。すると、またバブ−が勝った。負けた少年は、自分が大変なことをしでかした、と後悔した。その「石」を返してくれと、バブ−に頼んだが、一度勝ったものは返すわけにはいかないと、バブ−は厳しく要求を撥ね付けた。負けた少年は泣きながら家に帰って、母親に訴えた。「バブ−が僕たちの家のシャリグラムを取ってしまったんだよ。」 その母はそれを聞いて途方に暮れた。礼拝室に駆け込んでみたが、やはりその「石」はなかった。彼女は自分の子を連れて、バブ−の所に行った。ほかの子供たちと遊んでいたバブ−は、彼女の願いを聞いても、シャリグラムを返すことを拒絶した。困った女は、バブ−のポケットからおはじきを全部取り出した。しかし、バブ−のほうは隙を見て、その石を口のなかに放り込んでしまった。「母さん、シャリグラムはバブ−の口のなかにあるよ!」女は初めのうちは、バブ−に口を開くように懇願したが、バブ−が言うことを聞かないので、ついには力まかせに彼の口をこじあけようとした。
 そのとき、バブ−は自分で口を開いた。すると、女が仰天したことに、その口のなかに見えたのはヴィシュヌ神そのものであった。それはアルジュナがクリシュナのなかに見たあの神の姿であった。彼女は泣き出して、バブ−の足に触れて赦しを乞うた。わずかのあいだに、村中の人々がこのことを知り、バブ−が神の化身であることを信じた。


8.神性を現わしたバブ−
                                      於天神930314/1646
 その時から、バブ−はほかの子供たちと遊ぶのをやめた。ときどき、彼はモスク(回教寺院)に行って、シヴァまたはヴィシュヌの神像を拝むことを始めた。プ−ジャ(ヒンドゥ−教の礼拝儀式)に必要なあらゆる器具を彼がどこから集めてきたかは、誰にもわからなかった。バブ−がこういう「不都合な行為」をするというので、ムスリムたちは腹を立てた。ところがバブ−のほうは、それと逆に、ヒンドゥ−教の神殿(寺)にも時々出かけてコ−ランの吟唱を始めた。この行為で、ヒンドゥ−教徒たちはバブ−に対して怒った。両方の教徒たちはバブ−の養母のもとに行って、この子のやり方を非難し、そのような「不法行為」を彼がやめないならば、復讐するぞと脅かした。
 養母は恐れた。彼女はバブ−を心から愛していたのである。それで彼女は言葉を尽くして、そういうことをやめるように説いたが、バブ−はその言葉を聞き入れなかった。彼自分のやり方を続けた。養母は仕方なく、バブ−をバンクッシュ・マハラジのアシュラムに連れて行って、そこに彼を預けようと考えた。


9.バブ−の受難

 バンクッシュ・マハラジは敬虔な人だった。彼は孤児のためにアシュラムを経営していたのである。彼は孤児たちに、初等教育を施していた。或る夜のこと、彼は夢を見た。その夢のなかに現われたシヴァ神は次のように告げた。「明朝、10時きっかりに私はお前の
大聖シルディ・サイババ小伝