いマスジッドの回教僧が何人かのムスリムと連れ立ってくるのを見た。「パンディットジ(ヒンドゥ−教学者の敬称)、どこにお出かけですか?」と聞かれたパンディットジは答えた。「あなたはあのファキ−ルがムスリムであることをご存じかな? 昨日、あの男はマスジッドでコ−ランを唱えていたということですぞ。」回教僧は言った。「その通りです。ところが今は、古い寺でサンスクリットのお経を唱えて、シヴァ神を礼拝していますよ。彼はヒンドゥ−でもムスリムでもないと、私は思います。彼は偉大な聖者です。」「だが、コ−ランを唱えるような者を寺に泊めるわけにはいかないのだ」とパンディットジは言った。
 回教僧は答えた。「あそこは古い寺ですし、神像もありません。誰もあそこでは祈りを捧げません。ファキ−ルがあそこに泊まっても、何の害もないと思うのですがね。」
 しかし、それに承服しなかったヒンドゥ−僧は、皆とともに古い寺に行った。そこでは、ファキ−ルはよく通る声でサンスクリットのお経を上げていた。一同はその読経の声を聞いて感動した。ヒンドゥ−僧は密かに思った。「このファキ−ルが村に留まることになると、俺の立場が危うくなるぞ。誰も俺のところに来なくなるかもしれない。自分の立場を守るためには、どうしてもこいつを村から追い出さないといけない。」そう考えた僧は、次のように質問をした。「お前の宗教は何なのだ? ヒンドゥ−かムスリムか?」
 ファキ−ルは「私はサイです」と答えた。パンディットジは言った。「お前の名前を訊いているのではない。お前の宗教を知りたいのだ。」
 ファキ−ルは言った。「私は人間です。私はヒンドゥ−でもあるし、ムスリムでもあります。それがどうかしましたか?」
 パンディットジはさらに尋ねた。「お前は昨日、マスジッドでコ−ランを唱えていただろう?」
 ファキ−ルは「そうです。それがどうかしましたか?」と答えた。
 「それでは、お前がこの寺に泊まることを許すわけにはいかない」とパンディットジは言った。ファキ−ルは、「私もここに泊まりたくはありません」と言った。
 そのとき、回教僧はこう言った。「サイババ、あなたはドワルカバイ・マスジッドという古いマスジッドに泊まってもかまいませんよ。そこは或るヒンドゥ−の女によって建てられたものです。今は使われていないのです。兄弟ダモルカルよ、あなたのご意見はどうですか?」ダモルカルはパンディットジの支持者ではなかった。彼はむしろ、ファキ−ルに対するパンディットジの仕打ちにショックを受けていた。
 回教僧に同意して、ダモルカルは言った。「サイババ、あなたはドワルカバイ・マスジッドに泊まるべきですよ。明日、みんなであそこの掃除をします。」サイババはその申し出を受け入れた。彼は自分の袋を持って、ドワルカバイ・マスジッドに赴いた。5匹の犬も彼に従った。
 次の日に、多くの人がダモルカルと一緒に、その古いマスジッドに来た。ムスリムの人々も回教僧とともに来て、全員で掃除を始めた。数時間で、その場所は奇麗に清められ、立派な住まいになった。
 ダモルカルは言った。「サイババ、ここにお泊まりになってください。お好きなところに坐ってください。食事については心配なさらないで結構です。毎日、食物をお届けに参ります。」それに対して、サイババはこう言った。「心配はご無用ですよ、ダモルカル。あなたは金持ちです。これから、ますますあなたは富むことでしょう。しかし、私はあなたから毎日食事を頂くわけには参りません。私は毎日食物を乞うて回ります。それが私の決まりなのです。」
 サイババは疲れを覚え、古い服でベッドを作り、ベッドの端に乾いた血で覆われた煉瓦を置いて、それを枕に横たわった。5匹の犬もまた横になった。
 このファキ−ルこそ、ほかならぬバブ−だった。煉瓦はアシュラムの少年たちが彼の頭を打ったのと同じ煉瓦だった。村人は彼をサイババと呼ぶようになった。人々は5匹の犬の振る舞いを見て驚いた。そこらの野良犬にしかすぎなかったが、一日も経たないうちに、犬たちはサイババに従順になったが、村人はその犬たちを知らなかった。ダモルカルは、犬たちをそんなに早く手なずける人は偉大な聖者にちがいないと思った。
 次の日、ダモルカルは何人かを連れてドワルカバイ・マスジッドに出かけた。マスジッドを修理しようと思ったのである。ダモルカルの正式の名前は、ゴ−ヴィンドラオ・ラグナト・ダモルカルと言った。彼が古いマスジッドに着くとすぐ、サイババは彼を出迎えて、こう言った。「ようこそ、ヘマッド・パント。しかし、あなたはどうして私のためにそんなに骨を折ってくれるのですか?」一同はダモルカルに付けられた新しい名前を聞いて、驚いた。サイババは言った。「あなたの本来の名前は長すぎるので、これからはこの新しい名前であなたを呼ぶことにしますよ。お気に入りましたか?」

                                     
番 外 
930315/1556。 愉美子が隣町に行って10万円のサラ金を借りてきた。私が清酒ワンカップを2本買って来るように頼んであったので、著述4日目の私の机に、お酒が届いた。いつもの通りに飲み始めたが、味が変だ。気持ち悪い。6割ほど無理して飲んだが、どうしても駄目だ。断念して蓋をした。どういうことなのだろう? 二度目の結婚に失敗して、45歳からやけ酒を飲み出して、それが習慣になり、一升酒を16年間もやって、1988年にはアルコ−ル病院に入れられ3ヵ月禁酒をしたが、退院してからまた元どおりになっていたのに! プッタパルティでも、村中に酒を売る店がなかったので、近くの町から闇でウィスキ−を取り寄せて、ホテルで飲んでいたのに、どういうことだろう?6勺の酒でトロリとしているが、決して気持ちよいものではない。とうとう酒も飲めなくなったのかと、寂しい気持ちもする。禁酒や断酒の努力をしたわけではない。日本に帰ってからも、少しは飲んでいた。酒が切れても苦しくはなかったから、この原稿を書き出してからは、一滴もやってない。奇妙である。


 ヘマッド・パントは声を詰まらせて言った。「はい、主よ。実は、昨日新しい霊感を受けたのです。私は宗教の違いなどは考えないで、人類のために働こうと心を決めたのです。それで新しい名前が必要だったのです。あなたのご指導のもとで、全人類のために奉仕することができますように、祝福をくださいませ。」それを聞いたサイババの面に、得も言われぬ微笑が浮かんだ。
 皆がマスジッドの修理に忙しく働いていた。


11.青年が蛇に噛まれた
 その仕事中に、サイババの帰依者となった青年ドモダルを、一匹の毒蛇が噛んだ。ドモダルは失神した。誰かがサイババのもとに来て、この事件のことを知らせた。サイババはすぐ青年の所に行って、その頭に手を当てて言った。「下がれ、下がれ。」そこに居合わせた全ての人々は、サイババが毒に下がれと命令しているということを理解した。「そん
大聖シルディ・サイババ小伝