ダンドゥは一座の者に尋ねた。聴いていた一人が言った。「そう、それは奇跡です。間違いありませんよ。」ところが、この二つの出来事を耳にして、ヴィシュワナトは激怒した。「ダンドゥ、お前の頭はおかしいぞ! それは魔法以外の何ものでもない。あの詐欺漢はお前をだましているのに、お前はそれを奇跡だと言っている。」ダンドゥは何か言い返したかったが、薬を貰わねばならない立場だったので黙っていた。しかし、ヴィシュワナトは怒りのあまり、次のように言い足した。「お前があの詐欺師をそんなに信用しているなら、何で俺の所に来たのだね。お前には薬をやらないから、トットとあの男のもとに行って灰をもらい、それを女房にくれてやればいいさ。そうすれば治るだろう。もうお前には薬はやらぬことにした。」
 ダンドゥは慌てて言った。「駄目です、駄目です、パンディットジ! 薬をくれないだなんて! もし妻が死んだら、私の盲の老いた母や、びっこの妹にどんなことが起こるでしょう?」
 パンディットジは皮肉な口調で次のように言った。「では、ダンドゥよ。いい考えがある。お前のサイババから灰を3袋もらうのだ。一袋を盲の母親の目に塗るのよ。そうすれば、目が開くさ。もう一袋をびっこの妹の足に塗るさ。そうすりゃ、妹は走り出すだろうよ。それから、残りの一袋をお前の女房の口に入れてやれ。女房も治るよ。お前はそんなにもあの詐欺師を信じているんだからな。早くあの男のところに行け。俺はもう薬をやらんよ。」ダンドゥは一生懸命に嘆願した。他の者も見兼ねて、脇からいろいろ頼んだが、ヴィシュワナトは誰の言うことも聞かなかった。
 ダンドゥは家に帰った。彼の妻は呼吸をするのも苦しげな有様だった。妹も母も、どうか医者を呼んでほしいと迫った。村には、ほかに医者はいなかった。ダンドゥはドワルカバイ・マスジッドに走って行き、サイババに会うと、「サイババ、どうか助けてください」と必死に言った。
 サイババは言った。「心配しないでもいいよ、ダンドゥ。パンディット・ヴィシュワナトはいい人だね。彼の言ったとおりにしなさい。」そう言って、サイババば3袋のビブチをダンドゥに与えた。ダンドゥはそれを持って、急いで家に帰り、まずビブチを母親の目に塗った。それから、もう一袋を妹に渡して言った。「妹よ、サイババがビブチをくれたのだよ。これをお前の両足に塗りなさい。よくなるだろう。」次に、3番目の袋からビブチを妻の口のなかに入れてやって、「これでよくなるよ」と言った。妻は立ち上がって言った。「何だか吐きたくなりました。」「俺が盥を持ってきてやるよ」とダンドゥは言ってから、台所に去った。ダンドゥの妻は自分で立とうとした。ダンドゥの妹は駆け寄って、義理の姉を助けようとした。そこへ老母がやってきて言った。「バフ−、お前は本当に弱って顔色が青ざめているね。」娘は驚いて叫んだ。「お母さん、あなたはこのバフ−がお見えになるの?」母も叫んだ。「あら、何でも私は見えるよ。でも、お前はどうして両足で立っているのかい?」ダンドゥの妻も言った。「私もとても具合がいいのです。何も起こらなかったみたいだわ。私たち3人とも、サイババのお慈悲でよくなったのよ。」
 そのうちに、ダンドゥはその場に来て、この奇跡を見ると、すぐにドワルカバイ・マスジッドに走って行った。着くと、彼は恭しくサイババの足に触れた。彼は気でも狂ったような様子をしていたので、誰かが、「ダンドゥ、いったい何が君の身に起こったんだね?」と訊いた。ダンドゥは次のように答えた。「何が起きたか知りたいのだったら、どうか私の家に来てください。自分の目でビブチの奇跡を見ることができますよ。」それから、また自分の家に走って行った。
 ヴィシュワナトは、ダンドゥが狂ったように走っているさまを見た。きっと、彼の妻が死んだのだと思った。皮肉で彼に言ったことをそのまま実行して、また奇跡が起こったなどとは、夢にも考えなかった。
 ますます多くの人がサイババの帰依者になった。それとともに、パンディット・ヴィシュワナトの所に行く人はだんだん減ってきた。サイババに恥をかかそうと思っても、もう手の打ちようがなかった。


13.サイババの失踪
                                       於天神930316/1313
 前に述べたように、サイババがシルディ村に来て初めて食物を乞うた相手はバイジャ母さんだった。彼女の子供は一人切りで、タチャ・パテルという息子だけだった。彼女の夫はいくらかの土地を持っていたが、何年か患ってから亡くなっていた。パンディット・ヴィシュワナトが死んだ夫に薬を与えていた。バイジャ母さんは夫の治療費を作るために、所有地を全部売り払わなければならなかった。しかし、夫の命を救うことはできなかった。その後、彼女はひどい貧乏になっていた。タチャはジャングルで薪を作り、それを近くの町で売って生計を立てていた。その儲けは僅かなものでしかなかったが、バイジャ母さんは信仰が深く、サイババのためにチャパティとカレ−を料理して、彼の居場所を捜しては食物を捧げていたのである。
 ある日、彼女はサイババに自分の苦しい身の上を話していた。サイババは黙って、その話を聴いていたが、やがて次のように語り出した。「バイジャ母さんよ、喜びも悲しみもともに神さまからの下され物だということを、よく覚えて置きなさいよ。私たちはすべてを全能の神さまのプラサド(賜物)として受けるべきです。そのようにすれば、私たちはだれでも幸せになります。だが、心配することは何もないよ。私はあなたのことを"母さん"と呼んでいます。ですから、あなたの経済的苦しみを軽くしてくださるように、私は神さまにお祈りするよ。」
 その日、タチャは森で木を切っていた。急に、空が黒雲で覆われてきたことに彼は気づいた。タチャは思った。「これはひどい雨になるぞ。僕はまだ少ししか薪を作っていない。でも、薪が濡れたら何の役にも立たなくなる。売り物にならない。」そう考えた少年は、焚き木をまとめて家のほうに歩き出した。途中で或る老人に出会った。老人は、「薪を儂に売ってくれんかのう?」と言った。その時は、もう雨がシトシト降り始めていた。タチャは「お売りしますよ」と答えて薪を渡すと、老人は1ルピ−を払ってくれた。ところが、タチャは言った。「この薪は少ししかないので、値段はもっと安いのですよ。」それに対して老人がいった言葉は次の通りだった。「お前は正直な坊やだね。あすはまたここに来て、もっと薪をお前から買うことにしよう。」
 次の日、タチャは木を沢山切った。前の日に作った薪が少なすぎたからである。その薪を見て、老人はこう言った。「今日は、ずいぶん沢山薪を作ったな。だが、わが子よ、貪りの心は罪だということを覚えておきなさい。」タチャは次のように答えた。「昨日お渡しした薪は少なすぎたので、今日はあなたのために二倍の分量を持ってきたのです。値段は1ルピ−です。」しかし、老人は少年に2ルピ−を渡した。それから、タチャは家路についたが、斧を置き忘れたことに気がつき、また元の場所に戻った。ところが、そこには老人の姿も薪もなかった。斧だけがそこに残されてあった。いったい、あの老人は誰だろうと、少年は考え始めた。
 タチャは家に帰ってから、母親に、彼の薪を沢山のお金で買ってくれた老人のことを全部話した。「何か分からないけれど、この出来事にはサイババが一役買っているような気
大聖シルディ・サイババ小伝