がするんだよ」と少年は言った。
 それから、母子打ち揃ってサイババのところに行った。タチャが全てを話して、「この出来事の後ろにはあなたがいらっしゃるのだと、僕は思っています」と言った。サイババは微笑していた。「タチャ、お前は正直で働き者だ。それで、神さまも何かの方法でお前を助けたにちがいないね」と言った。
 サイババは立ち上がって、「さあ、お前の家に行こう」と言った。タチャの家に着くと、サイババはタチャの寝室に行って、斧を持ってきなさいと命じた。斧が来ると、ある場所を注意深く掘るようにと言った。掘ってみると、水差しが一つ出て来た。そのなかには、金貨やダイアモンドや宝石類がギッシリ詰まっていた。サイババはタチャに言った。「この宝物はお前の祖先のものだったのだよ。さあ、今はみんなお前のものだ。これから、この財宝を正しく使うがよい。」
 バイジャ母さんもタチャも、これを見て呆気に取られた。貧乏人のなかの最低の身分から、彼らはサイババの恩寵によって金持ちになったのである。
 時が過ぎた。ある日、サイババはバイジャバイにこう言った。「母さん、私はどこかよそに行こうとずっと思っていたのだ。3年たったら、また戻ってくるよ。」
 バイジャ母さんは「どうしてですか?」と尋ねた。サイババは答えた。「非常に多くの人々がここに来るが、みな利己的な態度を捨てようとしない。それだけではなく、私は景色の良いところに行って、三年間心を清めたいと思っているのだよ。」
 サイババがシルディの村を去るという知らせが広まって、帰依者たちはドワルカバイ・マスジッドに集まった。ヘマッド・パントは言った。「サイババ、私たちの間違っている点は何ですか?」
 サイババは言った。「私は戻らねばならない。みなはいつも通り、礼拝、バジャン、キルタンを全て続けていなさい。」
 次の日、バイジャ母さんが食物を持ってサイババの所に行ってみると、もうサイババの姿は見当たらなかった。例の煉瓦を捜したが、それはサイババの座所になかった。ババはとうとう村を去ったのだと分かった。


14.サイババの帰還とバイジャ母さんの死

 三年たって、4年目の最初の日が来た。タチャとバイジャ母さんはマスジッドでサイババを待っていた。朝から二人は何も食べていなかった。「サイババが私たちに残したお言葉によれば、今日は帰って来られるはずだ」と二人は思っていた。正午になった。バイジャ母さんはサイババのために、チャパティとカレ−を用意していた。とうとうサイババが現れた。涙がバイジャ母さんの頬を伝った。
 サイババは言った。「母さん、なぜ涙を流しているのかね? 私は約束どおり帰ってきたではないか。しかし、何でも執着しすぎるのは悪いということを覚えておきなさいよ。私たちは誰でもいつかは死ぬものだ。ラ−マもクリシュナもゴ−タマ・ブッダのような人ですら、みな死に直面せねばならなかったのだよ。死を免れる人間はどこにもいない。」 数日後にバイジャ母さんは病気になった。タチャはサイババのもとに来て、こう言った。「母さんが病気です。僕の母さんはあなたの母さんでもあります。どうか、母さんの命を救ってください。」
 サイババは慈愛をこめて言った。「しかし、タチャよ、どこに死なない者があろうか?一緒に出かけて、彼女に何か願い事がないかどうか訊いてみよう。」
 サイババの姿を見ると、バイジャ母さんは言った。「サイババ、あなたの本当のお姿を見せてください。」すると、バイジャ・バイの前に、主ナラヤンが立っているのが見えた。彼女は両手を組んで、サイババに頭を下げた。すると、サイババは彼女の頭を自分の膝に乗せ、タチャには彼女の足をその膝の上に乗せるように言った。
 そのとき、バイジャ母さんは言った。「サイババ、私に一つ約束をしてください。」
 「よろしい。何なりと、あなたの願うことを約束してあげよう。」
「タチャの面倒をずっと見てやってください。」
 「いいよ。私が死ぬまでこの子の面倒を見よう。」
 バイジャ・バイはにっこりとして息を引き取った。


15.さまざまの奇跡

 あるとき、コレラがマハラシュトラの村々に野火のように蔓延した。政府の役人はこの疫病を食い止めようと努力したが、政府の施策では間に合わなかった。キリスト教の宣教師たちは、クリスチャンのコレラ犠牲者だけを助けようと最善を尽くしていた。しかし、彼らの努力も充分ではなかった。
 ある日、帰依者たちはサイババが小麦粉を石臼で挽いているのを見かけた。ある帰依者が質問した。「何のために小麦粉を挽いているのですか、サイババ?」
 サイババは、「村をコレラから救うためだよ」と答えた。充分の量の小麦粉をひくと、サイババは帰依者たちに命じて、その小麦粉を村の境界線にグルリと撒くようにさせた。その通りにしたところ、シルディ村の者は一人もコレラに襲われないで済んだ。ほかの村からも、沢山の人がその小麦粉をもらいに来た。サイババから小麦粉を貰った人はみな助かった。そこで、政府が設営した隔離キャンプにいたコレラ患者がバタバタ死に始めたとき、患者たちはキャンプから逃げて、サイババの小麦粉を貰いにやってきた。キリスト教徒の患者までも命を助けてもらいに、サイババのもとに来た。
 ト−マス氏はボンベイの司教であった。彼はサイババの噂を耳にして、このファキ−ルは詐欺師にちがいないと思った。その男の正体を皆の前であばいて、恥をかかせてやろうと思った。そこで、ある日、彼はシルディに旅立って、ドワルカバイ・マスジッドに着き、サイババに会いたいと申し出た。
 しかし、ババは司教を招き入れなかった。ある帰依者がト−マスに待つようにと言った。ト−マスは何時間も待った末、腹を立てて、一人の帰依者にこう言った。「お前のサイババの所に行って、いったい彼は私に会うつもりなのかどうかを訊いてきなさい。会わないなら、私はこの場を去ることにする。」
 その帰依者がト−マスのことをサイババに伝えたとき、サイババは次のように言った。「明日の朝、私は彼に会おう。今夜はここに泊まったほうがいい。そうでないと、彼は事故に会うことになるだろう。」
 その帰依者は何もかもト−マスに伝えてから、「今夜、あなたがここにお泊まりでしたら、何もかも旨く運びますよ」と言った。しかし、ト−マスは怒って、ボンベイから乗ってきたタンガ(インドの小型二輪馬車)に乗って行ってしまった。事故が起こるかもしれないというサイババの警告を無視したのだった。
 タンガがマンマッド駅に近づいたとき、突然、一台の自転車がタンガの前に飛び出してきた。その自転車を避けようとして、御者は急に馬の速度を下げようとした。その弾みで、タンガは転覆した。ト−マスは放り出されて意識を失った。病院に担ぎこまれた。医者たちは、命が助かるかどうか保証しかねると言った。
 ト−マスは夢のなかで次のような情景を見た。サイババが彼のところに来て、祝福してこう言ったのである。「あなたは私の警告に耳を貸さなかった。あなたはこの事故で死ななければならなかったのだ。しかし、あなたはその目的が侮辱するためだとは言え、とにかく私の所に来てくれたのだから、あなたの命を救うことが私の義務だと思った。よく覚えて
大聖シルディ・サイババ小伝