おきなさい。ある宗教を信じて、その宗教のために仕事をすることはよいことだ。しかし、それだからと言って、ほかの宗教を辱めてよいということにはならないよ。」ト−マスは目を覚まし、誰かそばにいないかと捜したが、誰もそこにいなかった。彼は自分がサイババに救われたということを理解した。15日後に、彼は退院を許された。
 彼はまずサイババのもとに行って、赦しを乞うた。そして、そこに7日間どどまった。彼の内部に新しい人間が誕生したかのようだった。彼はキリスト教伝道の仕事をやめて、余生を貧しい人々の救済に捧げた。彼はサイババの熱心な帰依者になり、サイババの教えを多くの人々に伝えた。元・司祭はサイババを神の化身として受け入れたのである。


16.水を油に変えた

 デワリの祭の日が近づいていた。パンディット・ヴィシュワナトは村中の油商人を自分の家に呼び集めた。彼は一同に言った。「友よ、デワリの祭の前日には、サイババとその帰依者たちに油を売ってはならない。彼らの家を暗いままにしておくためだ。」この提案に全員が賛成した。
 デワリの祭は、10月か11月に全インドで行なわれる灯明の祭である。その前日と当日に、油商人たちは油がないと偽って、油を売らなかった。そのため、村人の大部分は油を手に入れて灯明をともすことができなかった。そこで、困った一同はサイババの所に行った。サイババは言った。「よろしい。ここの井戸から水を運んで、それをランプに注ぎなさい。」皆がその通りにしてから、サイババは水で一杯になったランプに火を点した。何という奇跡だろう! ランプは油もないのに赤々と燃え出したではないか。次に、サイババは一同に、油のない全ての家にこの井戸水を配るように命じた。その井戸水のおかげで、すべての家は明るく照らされた。
 あらかじめ油を貯蔵していた油商人たちとパンディット・ヴィシュワナトは、自分たちの油缶がカラッポになっているのに気がついた。ランプをつけようにも、彼らには油がなかった。すべての油商人は自分たちの非を認めて、サイババのもとに行って赦しを乞うた。サイババは商人たちに井戸水を与えた。その日だけは水が油の働きをした。
 その日以来、油商人たちもまたサイババの信者になった。彼らはパンディット・ヴィシュワナトの家に行くのをやめた。村中で、ヴィシュワナトだけが孤立したままであった。彼はいつもサイババの悪口を言っていたから、誰も彼の家には行かなくなった。皆がサイババを愛し、尊敬していたために、悪口など誰も聞きたくなかったのである。


17.ヴィシュワナトの改心

 ある日、一人の巡査がヴィシュワナトの所に来た。彼は近くの警察署に配置されていたのである。その名前はヴィナヤックと言った。彼は最も腐敗した巡査で、いつも人々から搾り取ろうとしていた。サイババがシルディ村に来てからは、喧嘩沙汰は全く起こらなくなっていた。そのため、ヴィナヤックはシルディ村の誰からも金をむしり取ることができなくなっていた。こういう理由で、彼はサイババを嫌っていたのだった。
そのヴィナヤックの姿を認めて、ヴィシュワナトは挨拶をした。それからこう言った。「ヴィナヤック、サイババに恥をかかせる手立てが何かないかね? 彼はインチキだ。皆を騙している。」
 ヴィナヤックは答えた。「警察官はみなサイババのファンになっているよ。政府も、どんなやり方でも、サイババに一切迷惑をかけるなという明らかな指令を出している。」
 ヴィシュワナトは苛立って言った。「しかし君、彼をこの村から追い出す方法が何かないものかね?」
 警官は答えた。「村民だけがそれをやれる。われわれ警察の人間には何もできないよ。」  村人にやらせる方法が何かあるのかとヴィシュワナトが尋ねたとき、ヴィナヤックは答えた。「もし500ルピ−を出してくれれば、俺はあんたの望むことをやってのけるよ。」それから、非常に小さい声で、警官は自分の悪巧みを打ち明けた。ヴィシュワナトはその計略を聞いて非常に喜び、彼に500ルピ−をイソイソと与えた。
 サイババは自分の席に坐って、帰依者たちに話をしていた。ヘマッド・パント、タチャ、ドモダル、その他の帰依者がそこにいた。急に、若い美しい踊り子がサイババの前に来て踊り始めた。一人の若い男がタブラを奏で、一人の老人はハルモニウムを鳴らしていた。(タブラは印度の小太鼓、二つ一組で両手で奏する。ハルモニウムは普通の足踏みオルガン。)踊り子はまだ17歳にもならないくらいの娘だった。彼女の踊り方は、その昔、賢者ヴィシュワミトラの修行を妨げに地上に降りてきた妖精メナカを思わせるほどだった。しかし、サイババは賢者ヴィシュワミトラではなく、神そのものだった。そのため、踊りも踊り子も彼には何の影響も与えなかった。
 パンディット・ヴィシュワナトとヴィナヤックは、柱の後ろに隠れていた。大きなロ−プがヴィナヤックの手に握られていた。二人は今度こそサイババに恥をかかせ、村人の助けを借りて、姦淫の罪でサイババと若い踊り子をふん縛ろうとしていた。
 乙女がしばらく踊ってから、サイババは立ち上がって踊り子のほうに歩み寄った。彼女の前に立ったサイババはこう言った。「母さん、もうやめなさい。あなたの足が痛くなりますよ。」踊り子はやめた。突然、ヴィシュワナトが叫び声を上げた。蛇が彼を噛んだのだった。皆は彼のほうに駆け寄った。ヴィナヤックが一匹の大きな蛇を手に握っているのを見て、一同は吃驚した。ヴィシュワナトの全身は蒼白になっていた。サイババは微笑していた。徐々に、蛇はまた元のロ−プに変わった。
 ヴィナヤックは言った。「サイババ、どうか私を赦してください。この出来事の全責任は私にあるのです。」
 ヴィシュワナトは言った。「いや、ヴィナヤック、悪いのは私だよ。君は何もかも、私に迫られてやっただけだ。サイババ、どうか私を赦してください。あなたがこの村にお出でになってから、ずっと何年も私はあなたを敵と見なして、あなたに恥をかかせようとしてきました。しかし、私は大馬鹿者の哀れな人間です。あなたは全能の神です。そのことを私はやっと悟りました。私はもうすぐ死にます。どうか私を赦して、私の魂が平安を得るように祝福してください。」
 サイババは微笑みながら言った。「いや、ヴィシュワナトよ、お前は死なない。傲慢と無知で一杯だった古いヴィシュワナトはもう死んで、今はいない。新しいヴィシュワナトが生まれたばかりだから、そのお前は死なないのだ。お前は貧しい人たちのために、これから沢山のことをしなければならないよ。」
 サイババがヴィシュワナトの頭に手を触れたところ、蛇に噛まれた男は何事も起こらなかったかのように、すっくと立った。
 若い踊り子と二人の助手はサイババの足もとにひれ伏して、赦しを乞うた。そのときから、この3人はドワルカバイ・マスジッドに留まって、バジャンを歌うようになった。同じくその日から、ヴィシュワナトはサイババに帰依し、ヴィナヤックは正直な人になった。
大聖シルディ・サイババ小伝