無より
ことはできない。サイババが日本に来ても、ドヤ街には泊まるまい。もしそういうことをしたら、日本のジャ−ナリズムは「真の聖者が来た」と誉めそやすだろう。しかし、今のところはNHKの取材も何故か断わっている彼である。彼のすることは予想もつかない。また、彼のすることには一々なんらかの深い意味がある。下馬評はやめよう。
 今日は天気で日曜日。男の子の力も借りられるから、裏庭の耕作をしようと思っている。昨日は意志の剥奪でひどく悩んだが、今日は早寝早起きで、エネルギ−を取り戻したようである。活動できていれば、人間は幸せである。インドの乞食の子供たちの目は生き生きして逞しく、屈託がなかった。幸福は貧しさに関係がないのだろう。最近の調査でも、アジア各国のなかで、一番不幸感を持っているのは日本人だという統計が出ていた。清川村2800人のなかで一番貧乏な私たちが幸福になるのは当たり前かもしれない。「心の貧しき者は幸いなり」のキリストの言葉は嘘ではあるまい。彼もまた、一番貧しい人たちの仲間だったから。宝石の寄付があっても、翌日には金に替えて貧民に全部配ってしまった人だったから。
 サイババは教育に熱心で、幼稚園から大学まで多くの学校を建設した。そして、「生活の手段となる知識や技術を教えるだけでは、真の教育ではない」と言っている。聖典を教え道徳教育をするのが、彼の学校の中心になっている。病院を建て、最高の医療機械を備えている。医学を排斥して、何もかも奇跡で治療をするというのではない。
 旭丘光志さんの広く深い目でサイババのすべてを見て、よい本を書いてもらいたい。ここまで抜き刷りをして、彼に送ろう。

18.イカキ先生とゴロちゃん
                                       在天神940228/2351
 昔でも今でもよろしいが、あるところにイカキという名の先生がいた。イカキ先生には全国に1000人の弟子がいた。ある日、先生はそのお弟子さんたちに、それぞれ一通の印刷手紙を出すことになった。印刷をすませ、封筒も1000枚そろえ、80円切手も郵便局から買ってきて、一枚一枚折って封筒に入れ、それに切手を一枚貼るという仕事をやりだした。朝からポツポツ仕事を始め、130通ほど済ませたら、その単調な仕事に飽きてしまい、座敷にひっくり返って、「あああ、つまらないなあ。この仕事は僕に合わないな」とぼやいていた。そこへチャイムが鳴って来客が一人来た。
 「おお、イチロウ君か。いいところに来てくれた。ちょっとこの仕事を手伝ってくれないかね。」
 イチロウはちょうどその日は会社が休みで、退屈を持て余し、「そうだ、イカキ先生のところにでも遊びにゆこう」とヒョッコリ来たわけなのだ。二つ返事で、「いいですよ、喜んでやります。」先生はシメタとばかり、喜んで裏の畑に出かけ、前からせねばならないと思っていた二十日大根の収穫をした。40分ほどで仕事を終え、座敷に帰ってみると、イチロウは相変わらず封筒の仕事をせっせとやっていた。
 「きみ、大変だろう、その仕事は?」
 「いいえ、こんなの慣れていますよ。会社じゃこんなことばかり毎日やっているのですから。」
 「ほう、そうかい。僕にはとてもやりきれない。すぐ疲れてしまう。こういうのは機械がやるべきだと、すぐ考えてしまうよ。」
 「そうですね。イカキ先生には向きませんよ。何しろ、お名前が機械の反対だから。」 イカキ先生は、人がキカイに成りきれることが不思議でならなかった。
 「しかし、よく続くね。退屈しないのかい?」
 「ええ、そりゃしますよ。でも、そういうときは彼女のことなど考えてやっているので、けっこう楽しいものですよ。」
 「ふうん、今は何を考えていたの?」
 「カズコちゃんのことですよ。今ごろ、あのお堀端の喫茶店で、ココアでも作っているのかなあと思っていました。」
 先生はいいことを思いついて、「イチロウ君、どうだい。いま彼女に電話をしてみたら?ほら、そこの電話を使えばいいよ。」
 イチロウはちょうどそんなことを考えていたところなので、いそいそと電話に取りついた。
 「もしもし。あ、カズコさんですか。どうしてるの? え、それは困ったなあ。今、イカキ先生の所で仕事をしているんだよ。うん、そう、じゃ伺ってみるよ。」
 電話に手で蓋をして、「先生、カズコちゃんがここに来たいんですって。いいですか?」 「そりゃいいけど、デ−トにでも出るのかね?」
 「ええ、でも彼女に手伝わせて、この仕事を全部済ませてからにしますよ。」
 先生はますますシメタと思った。いくら何でも、イチロウ一人に何百通もの手紙の処理は辛かろうと心配していたからだ。カズコはまもなくして到着した。病院にゆく用があったので、店は昼前から休みをもらったということだった。
 「病院は終わったの?」
 「ええ、私を見てくださっている先生が今日はご出張とかで、ちょっと寄っただけで、すぐこちらに走ってきました。」
 若い二人は嬉しそうに談笑しながら、またたくまに千枚の封筒を仕上げてしまった。すぐ郵便局に運ぶというので、段ボ−ルの箱に封筒を詰めて、イチロウがひとりでそれを担いで行った。彼を待つあいだ、カズコは、お店から安く分けてもらったというインドの紅茶を飲んでいただくわと言って、台所に立った。
 イカキ先生は独身だった。以前にいた奥さんは何年か前に、性格が合わないとか言って、子供を二人連れて離婚してしまった。行く先も知れなかった。先生は実用心理学とかいって、人々の実生活に役立つ心理学を人に教えて生活していた。親から譲られた農家に住んで、犬一匹とともに仙人みたいな生活をしている。奥さんがいたころは、猫が沢山いたが、先生一人になって、捨て犬を拾ってきてからは、猫たちはみなどこかに逃げて行ってしまった。先生はもともと猫はあまり好かなかったから、それでもいいやと思っていた。
 「先生はなぜ猫がお嫌いなのですか?」と、紅茶をお盆に入れて運んできたカズコが尋ねた。
 「うん、猫は勝手者だろう。貴族的で、人なんか構いつけないところがある。呼んでも近くに来ない。ことわざにも、猫は呼ばないほうに来ると言うよ。」
 「ゴロちゃんは、今どこにいるのですか?」
 「さっき外で吠えていたから、きっとイチロウ君について行ったのではないかな。」
 そして、あの事件が始まった。

19.なんと驚くな!
                                       在天神940301/0037
 どんな「事件」が始まったか? 私は知らない。小説なんかめったに書かないので、どういうふうに話が展開してゆくのか全く見当がつかない。私の場合には、話を作るのではなく、話が勝手に生まれるのである。イカキ先生の小説を書き出した動機は大したことじゃ