むじな
 前にも書いたが、小学2年生のとき、私たちは一家で笠岡の祖母の家に行って、彼女の十二腸潰瘍を治療したことがある。そのとき、蝶々をチョウチヨと読んだら、受け持ちの先生から「てふてふ」と読むのですよと訂正された。祖父は笑って、「この辺ではチョチョンマと言うんじゃ」と言った。(この辺はすでに書いた気がする。)

 その夏休みに家に帰ったら、めぼしい家財がなくなっていた。私の三輪車も母のシンガーミシンもなくなっていた。鍵を預けていたノンダクレどもが、みんな酒代にしてしまったらしい。
 そのために、私たちは東中野の24号館という安アパートに引っ越した。父には講談社からの小説注文がこなくなって、母がアルバイトに出た。母は28歳くらいのころだったろうか。相当の美人だったから、勤め先の捕鯨会社の社長に迫られて、早く退職した。母の帰宅が遅いので、父はいつも憂鬱な顔をして机に座っていた。そういう父に、「自転車を買って」とせがんだら、ひどく怒られたのを覚えている。
 その代わり、4〜5日たったら、銀色の可愛い自転車を買ってくれた。父親の愛情が身に染みた。

ポンテルパン
                       在橿原990410/0221
 夜の8時から5時間は眠った。昨日(9日、金曜日)、水泳教室に行った11時ごろ、スパゲッティのようなものを食べてから、ずっと食欲なし。足がヨタヨタして、プールの縁に掴まって歩くのも恐怖である。かって、東京都立一中でマースターした古式泳法・神伝流も形無しである。小母さんたちはクロールの修得に夢中である。若返るのであろう。私はその横のレーンでヨタヨタ温水32度のところをコワゴワ歩く。大変な相違である。50代の小母さんと、72歳の爺との大きな違いがここにある。
 帰宅したら、ただ疲れていた。酒を飲んだ。食欲はゼロ。私には向かない。お茶の先生のほうが向いているよ。お茶やお花の先生は工アロビックスもジョッギングもしないだろう。それでも、ある程度長生きしている。文学の先生も似たようなものではないか。

 だから、ダブルになるが小学校のころが懐かしい。ポム・ド・テールというのは馬鈴薯のことだ。ジャガイモを主体にして作ったパン屋があった。24号館時代のことだ。父は失業中、母は捕鯨会社のボスの秘書。クジラの一番おいしいところを缶詰めにしたのが、母のお土産だった。私は「男中」(ダンチュウ)を仰せつかって、台所仕事と洗濯をやっていた。何銭か忘れたが、月給ももらっていた。それがリンチャンの収入源。おなかが空くと、ポンテルパンを買い食いした。

 近くに早稲田の左翼学生が住んでいた。僕は笹舟が好きだったので、アパート脇の川に幾つも作って流して遊んでいた。そういう僕をかわいいと思ったか、その早大生は僕を自分の部屋に招待した。小学2年か3年の僕に、左翼理論の講義をしてくれた。彼の教科書は[セルパン]という題であった、ちなみに、セルパンとは「蛇」という意味である。

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菊池哲栄消息わかる
                       在橿原990410/0911
 遠い高野山からキクチの携帯電話がかかった。昨日(金曜日)彼が帰った物音がしたが、すぐまた飛び出したらしい。完全なアル中でどうにもならん。住吉連合のヤクザたちと5日以来つき合っていた模様で、5、6、7、8、9と来て、今日の10日である。私への1万1000円はおろか、家賃3万も払えないという。アルコ−ル病院に入れるしかない。抵抗して、とにかく一杯飲ませろというだろう。
 私もアルコールから脱出しかけの身だから、あまり大きいことは言えない。二人とも隣り合わせて大変困った状態である。幼児期の回想がどんなにか楽しいかわからない。

 私は一年生の学芸会で、自分で作って演出した[ジャバン王とカンキ王]は。悪王ジャバンはJAPANの書い換えのように思えてならない。カンキは感(または勘)と気の合わせ言葉であったのだうう。忠臣カンタ大臣は「勘多」であろう。作者は幼なかったから、そういう漢字への当てはめはできなかった。悪王は酒宴の最中に、女装したカンキ王に誅殺される。男は女に気を許す。今の日本人はあちらこちらに悪人がいるが、殆どが女に惑わされている。そういう男を一掃するのが、いまの日本女性の任務だううが、悪王一掃後のJAPANには、昔の秩序が戻る。早く言って、男尊女卑となる。上の者は上に乗らねばならない。「優しい男」ばかりを今の女は求めるが、それはコントロールしやすい腰抜け男の大募集である。美女万能という社会は滅びる。
 CMやサスペンスを見ていると、その感を強くする。だから、私はあまりTVを見ない。

色白で可愛かったので
                       在橿原990410/1451
 私は女給たちにもてた。しかし、彼女の口紅と脂粉の匂いを、私は嫌った。私は化粧っけのない清潔な母を愛していた。それはずっと続いて、のちの妻たちも化粧などしなかった。
 女は色香ではない。女の本質に愛するべきものがある。臨終前の母の皺くちゃのオッパイを見たときも、私の母への尊敬は消えなかった。ここまでに尾羽打ちからしてでも、私ら4人の子供を育て上げた功績の尊さを痛感した。

 天下は崩れる。酒を飲んでも少しも元気にならない。
 天下が崩れるのを、私は防止できない。
 世界3分の1の人口と運命を共にするか。あるいは、生き残って果たすべき辛苦の天命を果たすか。
 楽観論を振り回す論者の言葉に、私は左右されない。
 悪王JAPANは徹底的に滅びなければならない。
 だから、このごろ楽天的な本は読まない。
 読んでも仕方がない。

     リンの電話:電話&FAX 0744−28−4731

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