書簡集リスト
183東京都府中市武蔵台3−32−5 杉浦浩次様方

御子ちゃん!
                                        在橿原970608/0849
 君が縁切りという一種の発奮(男らしさの発露と思う)をした6月1日は、私の心身に響き映って、私はほとんど死にそうになった。生ける屍−−ウツの極でした。
 重い体を引きずって、久米寺境内を突っ切り、久米診療所に行き、医師の援助を求めました。
 神のお引合せでしょう。進(シン)という慈医に合いました。私のウツに合った良い処方をしてくれました。それが何やら分からないままに、食後にその薬を飲み始めました。ウツ症状は飛びました。君に電話して暴言を謝する勇気も出ました。君の態度も軟化していました。
 この辺のあれこれは、『錦のたまづさ』創刊号に書いてあります。そこの部分だけ別紙に抜き刷りしてみましょう。

 今日は日曜日で、木村君がホ−ムヘルパ−として洗濯その他の家事の加勢に来てくれます。51歳の元気盛りです。毎週一回ですが、私は彼が私のオ−ラ圏内に2時間(たった!)いることを、どんなに喜んでいることでしょう。
 ですから、君、御子ちゃんが三日三晩も私とオ−ラ交換をしてくれたら、私は天国にいるような気持ちになるでしょう。
 私の精霊長は、「いいですよ。お金のことは一切ご心配ないように。月末までに奇麗にケリをつけます」と私に言いました。この精霊団は、私には15〜6人と感じるが、もっと多いのかもしれません。「お金のことだけでなく、ゴシュウサマ(御主様)のために、よい人間関係を作ってあげて、そういう人がつぎつぎとお援けにくるよう差配します」と最近も言ってくれました。目には見えないが、可愛い部下であり幕僚でもあります。
 精霊たちをもし「軍」というなら、きみが前に言ったとおり、私は「軍師」となるね。しかし、「勝ち負けなしの神いくさ」ですから、血なまぐさいことはないのです。

 小鮒を釣るのは「七つの子」に戻ったみたいで楽しいが、鮒の唇に傷をつけた以上、それを食料にしないといけないね。私には子供のころから、生物を痛めるという遊漁ごころがなかったのです。

 11時1分というイチの3並びです、木村君は大童。この言葉の語源は兜が取れて、髪を振り乱して戦うさまが、わらべの散らし髪に似ているというところから来ていますが、私はこのまま「大きいわらんべ」になりたいよ。ショ−コ−みたいな策略家は大嫌い。老子のように無策無為でノホホンとしていたい。そうかといって、君の憧れかもしれんが、シュティルナ−の『自我経』を訳したあのホ−ムレス(自由ケ丘で子供の私も彼を見た)のような人生が送れますか? 親戚縁者の誰からも相手にされず、尺八でも吹いて門付けをするのです。シュ氏(1806〜56)の原題の直訳は『唯一者とその所有』というのだけれども、現在、あんな本を読んでいる人間は世界の読書子の何%いるかしら。今読んでも面白いはずです。極端な個人主義から無政府主義という思想の筋道が、どこか今の世相に合うようにも思います。武林夢(無?)想庵だって面白い人物なのだが、サブカルチャ−人間として、私が持っている範囲では、どこの事典にも載っていません。彼らはみな孤独者で、ルンペン以上に強健な魂を持っていた。もしかして、心身も?

 君も王朝時代の貴子に生まれたら、一生詩歌管弦に耽れたのだが、あいにくひどい時代に生まれ合わせたものです。君や僕は梅宮辰夫の逞しさがゼロであって、やっとやっとで生きている。ウメミヤは沖縄で豪快な大魚釣り(完全なスポ−ツとして)をやっているが、私は苦い川タナゴでも釣れば食べるという人間です。鳥獣を殺して食うのはあまりに惨たらしいから、せいぜい貝、烏賊、蛸、海老、蟹くらいだったのだが、このごろは野菜が美味しくて美味しくて!

 さあ、私が死にかけていた時期の手記の抜き刷りを作りましょう。

                                                  一仙十父




 ジュ−ビシリンを小学校の級友がジュ−リンと略し、さらに10厘=1銭と囃し立てた。俺は一銭の価値かと思ったが、齢老いて「一仙」と置き換えることに想到したのです。 「イチの仙人、十種のカムダカラを具備する神父」とでも解釈してください。
 とくさの神宝については諸説があるから、私は勝手に創り出します。
     1.素直−−それは神への直通路
     2.無邪気−それは赤子の微笑を誘う
     3.正直−−それは神への直通門
     4.豪胆−−神とともに歩むときの勇気
     5.細心−−女のおくれ毛一本も整えてやる優しさ
     6.忘却−−瞬間に前後を断つ(道元は前後際断と表現した)
     7.許し−−イエスさまは7x70倍までも人を許せと言われた
     8.謝罪−−あやまる相手は天下古今に満ちている
     9.愛−ー−自我が抜けさえすれば自然に現れるもの
    10,真心−−神に通じる心
                                      以上です