トゥーリーバーで一泊しそこを出たと光炎剣は、馬に乗り風をきりながら南西へと走る。
『次はティントか』
「その前に竜口の村だな。そこからティント市へ向かう山道へと続いて、虎口の村へつく。竜口の村から見て、灯竜山をはさむ形の位置にある村だな。山道を歩くなら、まずは馬に休憩を取らせてやらないと」
ティントは坑道の上に築かれた鉱山都市で、主な産業は鉱物の発掘。この鉱山収入の賜物で、強力な軍事力を有しているらしい。ティントまでの山道は、平野なら楽に走れる馬も、人を乗せては辛いはずだ。
「見えた、あれだな」
ティント市への満ちにある小さな村。ティントへ向かう手前にある灯竜山を越えるまえに、ここを通らなければたどり着けない。
村の中へ馬を下りて入ると、入り口すぐ左手に宿屋がある。その反対側にはこうし売りがいた。家畜もいるなら、馬にとっては好都合だ。
「優しい村だな」
それがの第一印象だ。トトやリューベの村のように、人間味の溢れた村だと、彼は思った。
『馬にも良い環境だ』
光炎剣の言葉に「そうだな」と頷き、は馬をつれて宿屋へ向かう。
「少し馬を預かってもらえないか?」
「今からティントへ?」
「そのつもりなんだが・・・その前にこいつに休息を、と思ってね」
こいつ、と言いながら黒い馬を見れば、店主はにっこりと笑った。
「いいですよ。ウチはいつも暇なんで。よかったら泊まってやってくださいね」
「ありがとう、考えておくよ」
店主も人当たりがよい。無理に泊まれと言わないあたりが、の好感度をあげた。
彼は馬を預けて村を一周してみる。光炎剣は何も言わずに、周囲へ気を配る。この村には宿屋しかないらしい。あとは民家ばかりのようだ。
『、どうもこの先に嫌な予感がする』
「嫌な予感?」
『あぁ・・・』
こんなときの嫌な予感は大抵当たるな・・・。
は呟き、眉を寄せる。厄介事の場合は、馬がいないほうがいい。そして、この村よりも人の少ない、隠れる場所のないところが好都合。
「仕方ない、一泊して様子をみるか」
『そのほうが良いだろう。幸い、宿もあいているようだし』
光炎剣と意見が一致し、一端宿へ戻る。
「店主、一泊頼めるかな?」
言えば「もちろんです」と笑顔で帰ってくる元気な声。
「じゃあ、頼むよ。僕は少し出てくる。遅くなっても構わないか?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「ありがとう。ちょっと出てくるよ」
いってらっしゃい、との声に軽く右手をあげて彼は歩き出す。
『先にケリをつけるか』
彼がなぜ村を出て山道を歩き出したのかを理解したようだ。
「たまには僕も暴れたいしな」
『この間思う存分暴れて、傭兵隊の砦まで逆戻りしたのは誰だ』
「それは僕だけのせいではないだろ」
『が自らの意思で出向いたのだろう?』
光炎剣の言葉に「そうだったかな」と嘯いてから、自らの赤い髪をかきあげ、そして、笑った。
――あぁ、嬉しそうな顔をしているな。
光炎剣が胸中で呟くということができるなら、きっとそんなことを呟いていただろう。
山道を歩いて数分、気配が動いたことに光炎剣が気づく。
「出てこいよ。それとも、言われたいのか? 『出て来ねぇなら、引きずり出すぜ?』」
口元に笑みを刻んでは言った。誰がそこにいるのか、気づいているかのように。
――やはり、出てこないか。
「あぁ・・・いい風だな」
山道の途中にある少し広い場所では立ち止まり、吹いてきた風に赤い髪を揺らして目を閉じる。右手で柄を握りながら、あぶりだすか・・・と光炎剣に問いかければ、好きにしろ、との返事。
「なかなか気が強いな、おまえ。気に入ったぜ?」
人のことは言えないだろう、とは姿を現した男を見やって呟く。
白を基調にした鎧に赤の模様。赤毛の男は見たところ、戦場では誰よりも早く先陣を切るタイプのようだ。
『あの男、確かハイランドの人間だ。――シードと名乗っていた』
光炎剣は人間よりはるかに知能が高い。記憶力も然り。
『は知らぬだろうな』
――あっちは僕の顔を見たことがある?
『いや、ヤツが我らと対面しているときは部下を側に寄せ付けなかった。ヤツなりの配慮だろう、我々が身元を知られるのを極端に嫌っていたのを知っていたしな』
それじゃあ、遠慮はいらないな。
三年前にあった、トラン共和国で起こった門の紋章戦争後、は旅の途中でハイランドへ寄っていた。その際に面識のある人間が数名できた。その中に、このシードという男は含まれていないようだ。
はシードを目の前にして構えを取るだけで、戦いを仕掛けようとはしない。
「仕掛けてこないなら、こちらから行くぜ?」
シードは勢いよく走りこんできて振り上げた剣を振り下ろす。だが、はそれを光炎剣で受け止め押し返す。
「へぇ・・・その剣、珍しい造りしてるな。刀身まで金色なんて見たことがねぇ」
「なかなかの逸品だろう?」
は言って、左手にある火の紋章をいつでも発動できるように力をこめる。と、同時に懐から札を取り出し、発動させた。
「守りの天がい」
一回だけなら完全に魔法を防いでくれる。見たところ、何かの紋章を宿しているのはわかった。
「先に言っておくけど、僕はあまり気が長くなくてね」
は剣を握る手はそのままに、それはそれは嬉しそうに笑う。
「僕の邪魔をする者は潰すよ」
子供っぽく笑う瞳が、剣呑な色を宿す。それは、戦いの中に身を投じて身につけたものだ。
「へーえ、たいした自信だな」
『あの男、水の紋章を宿している。気を抜くな』
光炎剣の忠告に胸中で頷く。
「まったくお前は・・・」
次いで出てきた男は、冷静そのものの表情に少しだけ呆れを滲ませて。
二人が出てきたと同時に、は光炎剣の柄を握る指に力をこめた。刃は細く金色、柄の先に括りつけられた組紐の鈴が、清い音を奏でる。
「珍しいですね、その剣」
赤毛の男と同じことを後で出てきた男が言った。黒に白の模様、赤毛の男とは違い、知将と見て取れた。
『あの男はクルガン、知将だ。だが剣の才能もある。――厄介な相手が二人出てきたが、どうする? 勝算はあるのか?』
――あったら先にやってるよ。
胸中で苦く笑うに、光炎剣は呆れたようにため息をつく。
『あの自信はハッタリか。――大体の予想はついていたが』
――気力を削いだら負けだと思ったからね。
二人の男に視線を注いで隙を作らぬまま、は脳裏で光炎剣と策を練る。
『シードよりまずはクルガンを動けないようにする方が良いだろう。知将は容赦がない。目的のためなら冷徹にもなれる』
――了解。それで、僕が全体魔法をかける場合、補助は?
『私を誰だと思っている?』
不穏な空気を漂わせて光炎剣が言えば、は両肩を竦めて悪かったな、と謝った。
「行く」
は誰に言うともなくそう呟き、右手に持った光炎剣を構えてクルガンへと走りこむ。キンッ! と剣先がクルガンによって弾かれる。剣を手から落とすことはしなかったが、それでも滑り落ちそうになった剣を握り、体制を立て直すには少々時間がかかった。
その隙を二人は見逃さず、たて続けに繰り出された剣先が、の肌を掠めた。胸元を掠ったものは革の胸当てがカバーしてくれたが、マントはところどころ破れてしまった。
は忌々しげに舌打ちし、紋章へと意識を向けた。剣技だけでかなう相手ではないと悟ったからだ。
『二対一では厳しいぞ』
――仕方ないだろう? ここで口封じしとかないと。
『口封じならば、殺すしかないぞ?』
――わかっている。
胸中で光炎剣と話をしていると、そこへ声がかかる。
「二対一とは分が悪そうだ。手を貸そう」
の背後からそう声が聞こえた瞬間、体の横を風が走った。刹那、刃がぶつかる金属音がした。シードとクルガン、二人の刃を一人で受け止めている見覚えのある後姿――。
思わず名前を呼んでしまいそうになったのを何とか堪えて、は意識を左手と額に集中させた。
「クルガン!」
少し任せた――シードが言い放ってポケットから札を取り出した。どこからかやってきて助太刀する男は、自分達よりずっと強い。刃を合わせた瞬間にそれがわかった。そして、この男は目の前の「緋閃の」と面識があるらしい。それがわかったのは、の瞳にあった焦りの色が、安堵に変わったからだ。本人はそのことに気づいているのだろうか。
シードは取り出した札に意識を集中させる。
が少し前から意識を紋章に向けているのがわかった。これだけの時間をかけるならば、大技に違いないと思う。
『土は地を揺らし、火は炎となりて焼き払え――』
「『焦土』」
と光炎剣の声が一緒になり呪文を唱え終えると、彼を助けた男が二人の剣を押し払って退く。それとほぼ同時に、完成した魔法がシードとクルガンを直撃した。
揺れる大地に足を取られた二人に、降り注ぐは炎。だが、シードが唱えていたのだろう紋章の力で、防がれてしまった。
大きな舌打ちをし、はクルガンへと走りこむ。チリン・・・と鈴の音を響かせてクルガンと刃を合わせる。ギリギリと金属が擦れる音と一緒に、の声が響いた。
「おどる火炎!!」
敵全体にダメージを与える魔法だ。その魔法に以外の全員が驚いた顔をする。
『やりすぎだ・・・』
光炎剣が呆れた声を出すのは、仕方のないことだ。
焦土とは、火の紋章と土の紋章のレベル4の魔法を合体させたもの。通常、レベル4の魔法は1戦闘に対して一回、ないし二回が限度だ。そして、おどる火炎は火の紋章のレベル3の魔法。合体魔法だけでも気力が必要だ、それを唱えたすぐ後にレベル3の魔法を難なく唱えて放つには、それなりの魔法力と気力が必要だからだ。
文句を言ってる場合じゃないだろう! 彼は魔法がまったく駄目だ。そこをつけ込まれたら終わりだ。ばれないうちに、一気にケリをつける。
は文句を言う光炎剣にそう胸中で返し、柄を力強く握った。
「ふるえる大地!」
土の紋章のレベル4の魔法を唱えると、光炎剣の刀身が輝きを増した。これは、光炎剣が魔法補助を行ったからだ。そうでなければ、レベル4の魔法をこの短時間で3回も唱えることは不可能だ。
シードとクルガンはふるえる大地に足元を取られながら、どうにか立っている状態だ。その二人の間に割り込んだは、刀身で二人の腰あたりに拳を叩き込む。膝から落ちていく二つの体から離れようとしたとき、シードの剣を持つ手が振り払われた。それはを捕らえて、小さく細い彼の体は勢いで吹き飛ばされてしまった。
「おっと、大丈夫か?」
低い声が彼の頭上から聞こえる。どうやらの体は受け止められて、無事のようだ。
――まったく、手間がかかるね。
苛々とした声が低い声よりさらに上から聞こえ、風が二人の体を横切った。そして、その風はシードとクルガンを包み込み、消えていく。
――面倒ごとになる前に、僕を呼んだらどうなのさ? 頭脳は相変わらず一方通行なんだね。
更に苛々とした声がに落ちただけで、そのあとに聞こえる声はなかった。
『手間をかけたな、風の子』
――光炎剣、もう少し調教した方がいいよ。
風の子と呼ばれた彼は、呆れた声を光炎剣にだけ言い放って去っていった。
「我らも今のうちに逃げるとするか」
茶色いマントを羽織った助太刀男は、を俵のように担ぎ上げる。
「うおっ!? ちょっと、待っ・・・」
「待ったはナシだ。あいつら二人が眠っているうちに逃げないと、今度はこの程度では済まされんぞ?」
男は言い、有無を言わせずを担ぎ上げ、歩き出した。
「まったく、昔から無茶をするやつだとは思っていたが、更に拍車がかかっているな」
を担ぎ上げて竜口の村まで歩いてきた彼の、宿屋前にたどり着いたときの第一声がコレだ。
「ゲオルグさん・・・それはないでしょう」
にしては珍しく、いつもの口調と違う。フリックやビクトール、自分より明らかに上の地位にいるミューズの市長にすら自らの口調を変えなかったが、だ。
「それも変わらずか」
それ、とはの口調を言ったのか、それとも性別を偽っていることを言ったのか。判断をつけかねて、は苦く笑うだけにとどめて返答を避ける。
「が心配していたぞ。一度顔を見せてやったらどうだ?」
とは、今は英雄と名を馳せている人物だ。3年前の『門の紋章戦争』の際、行く当てもなく彷徨っていたを拾ってくれた人物だ。闘う術を知ってはいたが己の思い通りにはできず、記憶のない自分が知らぬ『誰か』に追われていることも知っていて、それでも優しく仲間としてみてくれた人物――。
「ゲオルグさんはが心配なんですね」
「まあな。ところで、今夜はこの宿か?」
「えぇ、この村にはこの宿しかありませんし、この先に行かなければいけないので」
どこへ、とは言わない。彼にはこれだけで十分に理解できるだろう。――この先には、一つしか街はないのだから。
「俺もここへ泊まるとしよう。――おまえともう少し、話がしたいしな」
そう言ってから、彼は瞳を細めた。
「門の紋章戦争から3年か――」
彼は年齢相応の表情をして、思いを馳せる。
椅子に座っているを見やり、彼はビールを片手に薄く笑う。
「崩れ落ちる城におまえは仲間を助けに入っていった。俺はその様を、遠くから見ていた」
とは敵対する赤月帝国の六将軍の一人だった彼は、仲間としてと対等に向かい合うことはできなかった。だが、彼の友人であるテオ・マクドールと一緒に、彼を見てきたのだ。心配でないはずがない。そしてあのとき、彼は赤月帝国を去っていたはずだった。
「まさに――緋閃だったな、あのときのおまえは」
あの戦争のあと、についた『二つ名』だ。
「まさか会えるとは思っていませんでした。二太刀いらずのゲオルグ――でしたよね」
ビールの入ったジョッキを手に取り、は一口飲んだ。ゲオルグほど豪快には呑めないが、は酒を嗜むのが好きだ。
「まだ、なんだな」
「えぇ・・・申し訳ありません」
「いや、構わん。思い出したからといって、今と大差ないさ」
なぜか、彼の顔は知っていた。記憶に残っていた印象が強かったのだろう。彼の顔だけは、覚えていたのだ。
「ササライにトラン湖に放り出されて、成り行きで解放軍に加わった私に――時々、あなたは私に剣を教えてくれた」
トラン湖と街を行き来するのは自由だった。船はいつでも出してくれたから、一人で街へ行き、そこでひっそりと隠れるようにいたゲオルグに剣を教えてもらっていたのだ。
「光炎剣――少し話してもいいか?」
大人しくしていた光炎剣は、ゲオルグの言葉を察して『仕方ない』と許可を出した。
「おまえは自分の出身がどこだか気づいているのか?」
「――えぇ・・・おそらくは『ハルモニア神聖国』ではないかと思っています。ササライが私に向けて放つ言葉の節々、光炎剣の特殊な紋章・・・・・・それを踏まえて結論をつければ、そうなります」
「そうか、その意見については俺も賛成だ」
ごくり、と喉を鳴らしてビールを飲んだあと、ゲオルグはこつり、とテーブルにゆっくりとした動作でジョッキを置いた。
「おまえはよく俺と飲んでいた――こうして、な。まだ見習いで剣の才能がイマイチだったおまえは、アイツではなく、なぜか俺に剣の修行をつけてくれと言ってきたものだ」
そのたびに、礼として酒に付き合えとゲオルグはに向けて言っていたらしい。
「おまえの記憶に、俺が残っていたのはそのためだろう」
は穏やかに言う彼を見て、ほぅ、と小さな息を吐く。自分の何を言い出すのだろうかと、少し緊張していたらしかった。
「僕は、自分で記憶を見つけようと決めました。それは今も変わりません。――自分で思い出すものが、真実ですから」
「そうだな。――おまえは明日、早いのか?」
「えぇ、あまり遅くならないほうがいいので」
「そうか。無謀な仕事をしているようだな」
無謀、と言われては少しむっとしてしまう。宿についたときにも言われたからだ。
「一度染み付いた生活は、なかなか戻りませんから」
が不機嫌なまま低く言えば、ゲオルグはすまんすまん、との頭をぽむぽむと叩いた。
「ゲオルグさん!!」
頬を高潮させて言ったに、彼は低く笑って。
「おまえはそのほうがいい。――下を向くな、前を向け。精一杯、前を向いて走って、走りすぎて疲れたら――俺の元へ来い」
いつでも、相手をしてやる。
彼は言って、口元を緩める。
あぁ、彼は自分のことを心配してくれているのだ。すぐ無茶をする自分のことを。
すとん、とその気持ちがを満たしてくれる。
纏う雰囲気が緩くなったのを見つけて、ゲオルグは瞳を細めて視線を窓の外へ向ける。
おまえは、きっと笑うだろうな。心配性だと――・・・。
カタン、と椅子の音をさせながら立ち上がり、は椅子に座るゲオルグを見下ろす。
「ありがとうございます、ゲオルグさん。記憶が戻ったら――あなたを探して報告します」
「あぁ、俺はまだまだ生きるからな」
「今度あったらチーズケーキ、おごりますよ」
「それは楽しみだ」
「ただし、一個だけですよ?」
あはは、肝に銘じておくさ。
ゲオルグの笑い声を聞きながら、は彼の部屋をあとにした――。
翌朝、は宿の主に馬を預けたまま、ティントへの山道を歩くことにする。
『、先に言っておくが、もしこの道でモンスターに出会ったら、火の紋章だけは絶対に使うな』
このあたりって何が出るって言ってたっけ?
はこの国の地理には詳しくない。数日前、傭兵の砦で手伝った書類整理の中にあった情報は仕入れていたが、それもこちらの方面は少なかった。
『ここはフライリザードで火属性の攻撃には無敵だ。おまえは火属性が得意だから、無意識に使おうとする。気をつけろ』
「了解。ま、光炎剣がいれば心配ないだろ?」
『まあ、出てきても数は少ないだろうが、用心に越したことはない』
心配性だなぁ、光炎剣は。
歩を進める速さは落とさず、は光炎剣の柄に触れる。
「とか言ってる間についたぞ。宿屋と鑑定屋か。・・・お、ひよこを売ってるぞ」
山道から解放されてその先にあった村の広さは、竜口の村と変わらない。あるのは宿屋と鑑定屋で、草が少し生えているだけで、木が数えるほどしかない。
その虎口の村を出て平地を北へ少し歩くとティント市がある。
「これを歩くのか・・・」
げんなりとした声を発するのは仕方のないことなのかもしれない。ティント市へ入った瞬間に見えたのは、宿屋と道具屋。そして、視線を上へあげていくと防具屋と鍛冶屋、さらに視線をあげると市庁舎。目的である市庁舎は、教会の下、つまりほとんど頂上に近いのである。
『仕方なかろう?』
「――そうだな・・・」
は両肩を落として、仕事を片付けるべく、その坂道に足を向けた。
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