凪ぐ輝石 5



赤く燃える火は、軌跡を描く風を誘う。――破を求めて。



馬鹿だね、君は。

――もっと楽な生き方が出来るはずなのに。どうして戦闘の真っ只中に入ろうとするのか。

記憶がなければ、それだけで戦闘から逃れられる。

それでも、君は――それこそが自分の歩む道だと、自らの手で決めた。

だから、君を誘(いざな)う役目を。

 

あのとき、僕が言ったことを覚えているかい?

 

君は 『特別』 なんだ。







 は軍師であるマッシュに呼ばれ、彼の元へと足を運ぶ。
です」
 扉をノックしてそう言えば、彼は一緒の部屋であるアップルに「大広場にいる」と言い置いて出てきた。
 大広場までやってきた二人は、お互いに顔を見合わせた。
「何を企んでる?」
 自分に何をさせたいのだと問うに、マッシュは少しだけ躊躇ったあと、言った。
「あなたの持つ剣のことを、少し調べさせていただきました」
「で?」
「その紋章を完全に使いこなせることができれば、我々の戦いも有利になります」
 濁すことなく本音を語ったマッシュを、は信頼している。信頼しているからこそ、彼の言葉にこめられた思いを感じることができた。
「誰か相手が必要。ただし、は却下。認知していない人物がいい」
 が女だということを知っている。グレミオやリュウカン、マッシュも知っているが口外しないように言ってあるのだ。
「魔法は僕が引き受けるよ」
 どこからともなく吹く風が人型を作っていく。
「真の紋章はなかなか使いこなせない。きっとその光炎剣の性質を知っているのは僕だけ」
 ルックが言えば、マッシュは了承していたのかのように頷く。
「頼みます」
「剣術の相手は、熊以外がいいと思うよ。星辰剣は光炎剣と知り合いだからね。――光炎剣は『魔法剣』だから、おざなりでも魔法の使える人物がいい」
 軍師はルックの言葉に少しだけ考えこみ。
「フリックなら雷の紋章を使うことができるな」
 青雷のフリックと異名がつくほど、彼は雷の紋章を使いこなすことができる。
「彼はまだ、のことに気づいていないのか?」
「まだここに来て一ヶ月も経ってないから、何とも。知っていて言わないだけか、本当に知らないのか。・・・もしばれた場合に、口外しない人物がいいと言ったら我侭すぎる?」
「フリックなら大丈夫だろう」
 マッシュはにフリックをそこへ呼ぶように言い、は言われたとおりに大広場を出た。
 まだ夜には早い時間だが、戦闘がなければビクトールと一緒に酒場にいることが多い。まずは酒場に足を運んでみることにする。
「いたいた」
 は戸惑いもせずに酒場へ入り、思ったとおりに飲んでいる彼らのそばへ近づいて。
「フリック、マッシュが呼んでる」
「俺だけか?」
「そうみたい」
 フリックが渋々と椅子から腰をあげる。
、フリックのかわりに呑んでけ」
 ビクトールの言葉には苦笑する。
「今は呑む気分じゃないけど、相手にはなるよ」

 

 

 

 

 

「マッシュ、珍しいな」
 ビクトールと一緒に行動することが多い自分が、一人で呼ばれたことに驚いている風のフリック。
「悪いのですが、頼まれごとをされてくれませんか」
「内容によるな」
「しばらくの間、の剣術指南役になってもらえませんか?」
なら十分、一人で対応できるんじゃないか?」
 戦士の村出身である彼も、実際に戦闘能力を身につけたのは実戦に出てからだ。
「引き受けてやれよ、フリック」
 星辰剣を携え、さらには一緒に呑んでいるはずのを引き連れてやってきたビクトールは、フリックの渋る理由を察しているらしかった。
「おまえな・・・・・・人事だと思って」
「軍師さんよ、俺たちゃが性別を偽ってるのを知ってるぜ?」
 ビクトールの言葉に、彼の隣に立っていたも、軍師であるマッシュも驚きもしない。
「――やはり知っていましたか」
「その様子じゃ、わかっててフリックを選んだらしいなァ」
 仕方ねぇから受けてやんな。
 彼はいまだ渋るフリックをなだめるように言った。
「本当はお二人のどちらかにお願いするつもりだったんですが、星辰剣は光炎剣と知り合い、更にあの剣の特徴を掴みきるには、魔法と剣術の両方を扱える人物が良いということを踏まえると、やはり」
「俺じゃ、ちぃーっとばっかし荷が重いな」
 剣術は得意でも、魔法はからっきしダメなビクトールでは、の相手は務まらない。
「そういうわけで・・・・・引き受けてくれますね?」
「仕方ない」
「ありがとうございます」
 マッシュは小さく頭をさげる。
「ところであの剣はいったい何なんだ?」
 それはビクトールやフリックが、今一番知りたいことだ。
「私がお話しても?」
 マッシュは星辰剣に問いかける。
「あぁ。おぬしがどこまで知っているのか、知っておきたいしな。わからぬことがあれば、答えられる範疇で答えてやれる」
 マッシュはビクトールのいる大広間の入り口へと向かって歩き出し、肩越しにフリックを見やった。
「図書館へ行こう。その方が話しやすい」