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痾/麻耶雄嵩

1995年発表 講談社ノベルス(講談社)

 外部の視点からは放火殺人が一体の事件のようにみえながら、実際には放火と殺人がそれぞれ別人の犯行であるわけですが、それと同じように、烏有には一体と思われた“殺人者”と“脅迫者”が別人だったという真相になっています。この繰り返しの構図は意図的なものではないかと思われますが、それほど面白味が感じられないのが残念なところです。

 “脅迫者”である巫子神がわぴ子に影響力を及ぼし、そのわぴ子が“リテラアート”によって烏有と香山武男に影響力を及ぼすという、二段階の“操り”の構図はなかなか面白いと思いますが、やはりその具体的な手段である“リテラアート”に十分な説得力が備わっていないところが難点です。もっとも、烏有と香山武男のパーソナリティ――“ヨハネの教”にはまっている香山武男と、編集長に“操られて”いる烏有――によるものなのかもしれませんが。

 ところで、“荒木さんが殺されたのは放火の一日前だった”(252頁)、すなわち9月29日(土)の夜だということに落ち着いていますが、“荒木さんは三十日の夕方から姿を見せず――”(169頁)という報道では、30日の夕方までは生存が確認されているように受け取れるので、矛盾が生じているのではないでしょうか。

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 なお、本書と『夏と冬の奏鳴曲』との関連については、別ページにて(『夏と冬の奏鳴曲』をお読みになった方のみご覧下さい)。

2008.03.11再読了