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バカミスじゃない!?/小山 正 編

2007年発表 (宝島社)

 一部の作品のみ。

長篇 異界活人事件」 (辻 眞先)
 “死の世界”での“死”が“活人”になってしまうのが面白いところです。冷静に考えれば、空腹にもならずトイレの必要もないのに“死ぬ”ことはできるというのはおかしい気もするのですが、マイナス×マイナスはプラスだろ”(37頁)という台詞の(根拠のない)説得力はかなり強力です。
 メタフィクショナルな展開から、“登場人物が作者を殺す”という結末、そして作者の急死による中断というオチには苦笑を禁じ得ません。

「半熟卵{ソフトボイルド}にしてくれと探偵{ディック}は言った」 (山口雅也)
 叙述トリック一発の作品なのですが、なかなか効果的です。一つには、ハードボイルド風の抑制された文体であるため叙述トリックを仕掛けやすいということもあるでしょうし、また読者の思い込みと真相とのギャップが大きいということもあるでしょう。
 ただし個人的には、ハードボイルド風の探偵の正体が(一応伏せ字)ロボット(ここまで)だったというような作品をSF方面で読んだことがある気がするので、少々インパクトに欠けるところもありますが……。

「三人の剥製」 (北原尚彦)
 バカミスならではのうさんくさい犯行手段もさることながら、“バスカヴィル家の犬男”・“スマトラの大ネズミ男”ときて“モルグ街の猿男”へ行ってしまうオチ、そして死ぬ寸前の犯人がそのことをホームズとワトスンにわびるという状況が何ともいえません。
 ただ、事件の背景がかなり後味が悪く、素直に笑えないのが残念なところです。

「失敗作」 (鳥飼否宇)
 殺人事件の犯人は見え見え(というか他に容疑者がいません)ですし、その動機が『どのミステリがすげえ?』に掲載されたコラム「完膚なきまでの失敗作」にあることも明らかですが、そこに込められた碇有人(=鳥飼否宇)の狙いが何ともすさまじいものになっています。
 パロディ風の作品において、実在の人物などの名前をもじったネーミングが採用されるのはよくあることですが、この作品では単なるパロディ以上の具体的な目的があるところがよくできています。が、それが“烏餌杏字”と間違えて鳥飼否宇の作品を読者に購入させるというのが何とも……。
 加えて、斜め読みする読者向けのメッセージまで仕掛けられているところに脱帽ですが、その内容がまた……(一応、以下に示しておきます)。

[232頁]
鹿

[233頁]

[234頁]

[235頁]

 しかし、“烏餌杏字”のバカミスと間違えて鳥飼否宇の作品(特に『痙攣的 モンド氏の逆説』『本格的 死人と狂人たち』など)を購入した読者は、十分満足するのではないかと思えるのですが……。

「BAKABAKAします」 (霞 流一)
 犯人自身によるトリックではありませんが、被害者の切断された両腕によってアリバイが成立するという仕掛けが非常にユニークです。しかもそれが風のせいで“パカパカ、バカバカ”と音を立てるに至っては、他者の追随を許さない“霞流一ワールド”といわざるを得ないでしょう。
 ただ、最後に説明されている冒頭の叙述トリックは少々いただけません。いかに旧姓に戻ったとはいえ、“私”と“阿久沢”をわざわざ使い分ける必然性がありませんし、“阿久沢は右手を伸ばして”(297頁)という記述は阿久沢栄二郎の両腕が切断されていたことと矛盾するので、叙述トリックによる人物の誤認は成立し難く、いたずらに混乱を招いているだけのように思えてしまいます。

2007.09.13読了

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