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首断ち六地蔵/霞 流一 |
2002年発表 カッパノベルス(光文社) |
まずは六つの事件について。
さて、これでもか、といわんばかりの多重解決の果てに待っていたのは、“探偵役=真犯人”という真相でした。この構図自体は古典的ともいえるかもしれませんが、それを成立させるためにはいくつかの工夫が凝らされています。 例えば、風峰を事件に介入させるための地蔵の首という小道具の使い方は秀逸です。「地蔵院長は燃えた」・「修羅の首が笑った」・「人の死に行く道は」では、首が発見された後に犯行が行われていますし、「餓鬼の使いは帰らない」でも首の発見後に犯人としての最後の作業が行われています。犯行よりも前に風峰が現場を訪れることがたび重なっている点については、本来、冷静に考えれば不自然さは否めないのですが、地蔵の首の発見というきっかけによって、風峰が犯行時に現場付近にいることが当然のような状態になっています。これが真相から目をそらさせる役割を果たしていることはいうまでもないでしょう。 また、魚間岳士というキャラクターの役どころも重要だと思います。彼は以前に『赤き死の炎馬」や『屍島』という作品でワトスン役をつとめているため、これらの作品を読んだことのある読者には、ワトスン役である魚間と組んでいる風峰が犯人であるとは考えにくくなっているのではないでしょうか。 さらに、“真の謎解き役”である蜂草輝良里の事件への介入のさせ方もよくできていると思います。第六の事件で初めて登場することによって、解決のタイミングが自然になっている(例えば、ずっと風峰と行動を共にしてきた魚間(あるいは霧間警部)が突然真相に気づくというのは、やはり不自然に感じられます)と同時に、芝居の原作として魚間が書いた事件の記録によってすべてのデータを手にすることが可能になっています。芝居が上演されるということ自体にもそれなりの説得力があり、非常にうまく構成されているといえるのではないでしょうか。 ところで、キラリこと蜂草輝良里は『スティームタイガーの死走』にも登場しています(作中でも“列車消失事件”に言及されています)が、彼女は(以下伏せ字)戦前の推理作家“O.K氏”(大阪圭吉氏)が未来(現代)を舞台に書いた作中作の登場人物(ここまで)という設定だったはずで、魚間岳士と共演するのはおかしいようにも思えます。作者(霞流一)が(以下伏せ字)“O.K氏”のキャラクターを借用した(ここまで)と考えればいいのかもしれませんが。 2002.07.30読了 |
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