ミステリ&SF感想vol.17 |
2001.02.28 |
『消えた玩具屋』 『リサイクルビン』 『スティームタイガーの死走』 『五人対賭博場』 『バビロニア・ウェーブ』 |
消えた玩具屋 The Moving Toyshop エドマンド・クリスピン |
1946年発表 (大久保康雄訳 ハヤカワ・ミステリ283) |
[紹介] [感想] 詩人のキャドガンと探偵役のフェンのコンビを中心とした、ドタバタミステリです。“死体とともに消えてしまった玩具屋”に始まり、奇妙な遺言状、そして不可能と思われる殺人など、謎自体にも力が注がれていますが、同時にキャドガンとフェンの暴れっぷりにも重点が置かれています。しかし、このドタバタがやや鼻につく感もあり、どうしても読みにくく感じられてしまいます。
ミステリ部分の方はといえば、提示される謎に比べて解決の弱さが目立ちます。“消えた玩具屋”を始め、いくつかの謎の真相は早い段階で、しかも探偵役の推理ではなく登場人物たちの供述によって明らかになってしまうという状態である上に、最後に残る殺人事件の謎についても、あっさりと犯人の名前が指摘された後、逮捕劇のドタバタを経てから真相が明らかにされるという経過となっているため、解決場面のカタルシスが台無しになっているようにも思えます。 一風変わった遺言状やうさんくさい相続人たち、そして先を越されてしまった殺人といった状況は面白く感じられるだけに、もったいない作品です。 2001.02.08読了 [エドマンド・クリスピン] |
リサイクルビン 米田淳一 | |
2000年発表 (講談社ノベルス) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 前半と後半で物語はがらりと姿を変えます。前半は随所に作者のマニアックな趣味がかいま見えるものの、基本的には丁寧な取材に支えられた警察小説の雰囲気を保っています。鈴谷警部ら登場人物が現実離れしているとはいえ、緻密なディテールによってある程度のリアリティが生み出されているといえるでしょう。
この序盤で重要な謎である“密室誘拐事件”の真相は、意外ではあるものの反則に近く、これが最後のオチとして提示されたのであればあまり評価することはできません。しかしこの作品においては、この真相は最後のオチではなく、後半の展開の始まりを告げるキーとなっているにすぎません。作者にとってはここからがメインとなっているのです。 問題の後半は、前半とうって変わって暴走状態(けなしているわけではありません)です。これを示唆する伏線が前半にあまり見受けられないところが残念ですが、個人的には楽しませてもらいました。しかし、決して万人向けの作品ではなく、はっきりと好みが分かれる怪作といえるでしょう。 2001.02.11読了 [米田淳一] |
スティームタイガーの死走 霞 流一 | |
2001年発表 (ケイブンシャノベルス) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] ひたすらバカミスを追求し続ける霞流一の最新作。今回はストレートなギャグはかなり控えめですが、ニヤリとさせられる小ネタがちりばめられています。メインの謎は二つの殺人事件……ではなく、列車消失の方が中心に据えられていますが、このトリックがかなりの脱力もの(悪くはないですし、意表を突いたものでもあるのですが)で、くせのある登場人物たちの言動も相まって、なかなかのバカミス感をかもし出しています。
しかし作者のたくらみはこれにとどまらず、終盤に大きな仕掛けが用意されています。いくつかヒントもありましたが、きれいに騙されてしまいました。やや唐突にも感じられますが、鮮やかに決まっているといっていいのではないでしょうか。 色々なネタを詰め込みすぎて雑然とした印象になってしまっているところ、そして説明的な長台詞の多用という、解決場面の演出のまずさなどが気になりますが、作者の巧妙な仕掛けはやはり評価すべきでしょう。 2001.02.18読了 [霞 流一] |
五人対賭博場 5 Against The House ジャック・フィニイ | |
1954年発表 (伊東守男訳 ハヤカワ・ミステリ920・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 5人の若者たちの大胆な犯罪計画を描いた作品です。特に導入部が非常によくできていて、退屈しのぎのちょっとした悪戯が挫折したことから鬱屈した気持ちが噴出し、その反動のように襲撃計画にのめり込んでいく様子が見事に描かれています。
彼らの立てた計画は綿密かつ意表を突いたもので、非常にユニークです。また、予期せぬアクシデントが起こったときの主人公アルの対応も見事なものです。印象的なラストに至るまで、読者を引き込む魅力に満ちた傑作といえるでしょう。 2001.02.21読了 [ジャック・フィニイ] |
バビロニア・ウェーブ 堀 晃 |
1988年発表 (徳間書店・入手困難) |
[紹介] [感想] 堀晃唯一の長編にして、本格ハードSFの傑作です。バビロニア・ウェーブという空前のスケールの存在、その謎の解明が中心となっているのはもちろんですが、その背景に主人公マキタのバビロニア・ウェーブに対する複雑な思いや、基地に駐在する研究員たちの執念なども絡めた、奥行きのある物語となっています。
また、宇宙コロニーで育ったマキタのコリオリ力に対する感覚など、細かい描写がハードSFならではの魅力をかもし出しています。感動的なラストに至るまで、スケールの大きさと丁寧な細部の描写とが同居した見事な作品です。 ところで堀晃の作品では、登場人物が提示された手がかりやデータをもとに直感的に真相に到達することが多いように思います。この作品も終盤の展開はそうなっていますが、これは真相の途方もないスケールの大きさによるものであると同時に、作者自身が科学者(エンジニア)の直感に信頼を置いているということの表れかもしれません。 なお、この作品にはアイデアの一部を取り出した短篇版が存在し、短編集『地球環』(ハルキ文庫)に収録されています。 2001.02.23再読了 [堀 晃] |
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