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こちら殺人課!/E.D.ホック

1981年発表 風見 潤編・訳 講談社文庫120-1(講談社)
「サーカス」
 “首にロープを巻きつけてクルクル回る”という芸がややイメージしにくいため、真相がわかりにくく感じられました。

「港の死」
 いうまでもなくA.クリスティ『ABC殺人事件』のバリエーション(解説で触れられているので、伏せてもあまり意味はないでしょう)ですが、真の標的が捜査陣の一員であるレオポルド警部自身ということで、一連の被害者の中ではなくアクシデントによる被害者として隠してしまおうという発想がユニークです。ただ、真相解明の手がかりについてはやや強引に感じられました。たとえ潔白であったとしても、心理的に自分は名簿から除いてしまうものではないでしょうか。

「フリーチ事件」
 特になし。

「錆びた薔薇」
 車のラジオの調子が悪かったというのがよくできた伏線となっています。そして動機が秀逸です。秘密を守るために恐喝者を殺すというところはありふれていますが、その秘密、ハミルトン・ブレイクの死の真相が殺人に見せかけた自殺だったというのがポイントです。罪を隠すためではなく不名誉を隠すためという真相は、事件の状況にしては実に意外です。
 それにしても、レオポルド警部も女運が悪いというか……。

「ヴェルマが消えた」
 鬘を使ったトリックを提示しておいて、実際にはまったく違ったトリック(及び犯人)だったというひねりがよくできていると思います。死体を乗せたまま回り続ける観覧車という構図はなかなかシュールです。

「殺人パレード」
 自作自演の脅迫状というネタはあまりにもありがちです。一応パレードにトリックが仕掛けられてはいますが、殺し屋を雇うという可能性も提示されているように、あまり不可能性が感じられません。むしろ、ダミーの解決の方が面白いと思います。

「幽霊殺人」
 事故通報の入れ換えによるアリバイトリックがよくできています。ただの自動車事故であればほとんど穴はなかったのですが、殺人事件と絡んでしまったことで不可解な状況が生み出されると同時に、ひき逃げ犯人にとっても都合の悪い事態となってしまっています。

「不可能犯罪」
 死体の乗り込んだ車を後ろから別の車で押していたという真相は面白く感じられます。ちなみに、この事件と同じような状況が山田正紀『女囮捜査官5』で扱われています(もちろん、解決はまったく違いますが)。

2001.08.26読了

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