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凶笑面/北森 鴻

2000年発表 新潮エンターテインメント倶楽部SS(新潮社)
「鬼封会」
 ネタバレなしの感想にも書きましたが、この事件をミステリとして成立させるにはこの真相しか考えられないでしょう。ただ、それが“鬼封会”に秘められた真相と重なってしまうという暗合が面白く感じられます。

「凶笑面」
 〈凶笑面〉についての考察はよくできています。紐も“くわえ”もない面といえば泡坂妻夫の短編「掌上の黄金仮面」『亜愛一郎の狼狽』収録)が連想されますが、毒殺死体の顔を写し取ったデスマスクという結論の不気味さが何ともいえません。また、〈喜人面〉の真相を明らかにするラストも鮮やかです。
 事件の方では、偽造された〈喜人面〉の写真が証拠になっていないところが問題です。証拠がこれだけならば、犯人は言い逃れが可能でしょう。

「不帰屋」
 トリックは、森博嗣のある作品(以下伏せ字)『封印再度』(ここまで)を思い起こさせます(実際にはだいぶ違いますが)。

「双死神」
 “冬狐堂”にピンとこなかった方は、『狐罠』をお読みになって下さい。また、終盤に登場する“三軒茶屋の、とあるビア・バー”は、『花の下にて春死なむ』の舞台となっています。

「邪宗仏」
 一見して最も特徴的な秘仏の腕の部分ではなく、五臓六腑に着目した御崎氏の結論は非常によくできていると思います。ただその分、失われた腕に関しては曖昧になっているのがやや残念です。
 聖徳太子がイエス・キリストの生まれ変わりに仕立てられたという最後の結論も、両者の出生に関する共通点や、他の宗教を取り込む仏教の許容性を考えると、まったくあり得ないことではないと思わされます。

2001.11.28読了

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