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風水火那子の冒険/山田正紀

2003年発表 カッパ・ノベルス(光文社)

 「サマータイム」・「麺とスープと殺人と」・「ハブ」の三篇に、お得意の“聞き違い”が登場しています(「サマータイム」では前面に出ているわけではありませんが)。『妖鳥』の感想でも指摘しているように、一冊の中で多用しすぎるのはいかがなものかと思うのですが……。

「サマータイム」
 冒頭の“長い影”という描写が伏線となっているのが見事です。どのくらいの長さかはっきりしないためにアンフェア気味に感じられるかもしれませんが、監視台の高さはせいぜい数メートルですから、お昼頃の影が“長い影”と表現されることはあり得ないでしょう。
 事件関係者の誰一人として悪意を持っていなかったこと、そして犯人が被害者に水着を着せた理由が、哀しみに満ちた真相を一層強調しています。

「麺とスープと殺人と」
 被害者の胃の中にが入っていなかったことをきっかけとするドミノ倒し的な推理の連鎖は、なかなか面白いと思います。そして、被害者の不可解な行動の理由も意表を突くものです。ただ、“謎の言葉”についてはやや無理があるように思えます。

「ハブ」
 “西口事件”については伏線が非常によくできています。特に、“栃木のいなか出身で、早くに両親を喪って、祖父母に育てられた”“パーティドレス専門ブティック経営者”“かなり偏差値の高い”“私大”といった関係者のプロフィールの使い方が見事です。そして、“けいおうは遠すぎる”の真相が鮮やかです。
 爆弾事件の方は、藤堂がいかにも怪しすぎるのが気になりますが、葛西臨海公園でなければならない理由には説得力がありますし、“東京ディズニーランド”というトリック(?)の使い方もよくできています。

「極東メリー」
 風船による一酸化炭素中毒死については、以前に同じトリックを使った海外作品(以下伏せ字)(ヤーン・エクストレム『誕生パーティの17人』)(ここまで)を読んでいたにもかかわらず、恥ずかしながらまったく気づきませんでした。
 なお、解決の中で“それをあなたに告げたくて自殺とも他殺ともつかない状況をつくりたかったのだと思います”(226頁下段)というのは、火那子の勘違いでしょう。“彼女には自分が死ぬ意志などなかった”(225頁上段)のですから。
2003.04.17読了