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神君幻法帖/山田正紀

2009年発表 (徳間書店)

 山王一族と摩多羅一族による幻法勝負の目的が、将軍家のための生け贄であることは、本書の帯に書かれた“徳川家に盤石の安泰をもたらすため――捨て石となれ。”という一文でかなり見え見えになっていますし、“必ずや殺しあうことになろう。それもすべてはオン徳川家に盤石の礎を築くためである。”(32頁)という松平信綱の言葉もそれを裏付けている感があります。

 もっとも、その生け贄に関わる天海僧正の企みが、仏教の呪法などではなく天竺の異教、すなわちヒンドゥー教のジャガーノートだというのは、さすがに想像の埒外ですが……。

 しかして、幻法勝負の真の目的を知らされた山王一族と摩多羅一族の生き残り*1が、戦いを捨てて手を組み叛逆に及ぶという展開は、大半の登場人物が何らかの形で運命を受け入れている印象のある*2“風太郎忍法帖”にはそぐわない一方、デビュー作『神狩り』をはじめとする数々の作品で“神”――強大な支配者に対して戦いを挑む主人公を描いてきた山田正紀らしいと思います。

 幻法者たちの叛逆がむなしく終わってしまうのは予想通りといえば予想通りですが、主殿介と木通が天海に報いた最後の一矢が、天海の並外れた長命という史実につながっているところが非常に秀逸。しかもその長命が、自らも徳川家の礎になろうとした天海の思惑に反するのみならず、結果として徳川家に仇なすことになったという痛烈な皮肉が何ともいえません。

*1: ただし、『甲賀忍法帖』の“あの忍者”と同じようにトリックスター的な役割の膚主膳を除く。
*2: 『柳生忍法帖(上下)』の柳生十兵衛などは明らかな例外といえるかもしれませんが。

2009.02.21読了