あれこれ(その2)

換羽 ティッシュと靴下 はじめての狩り 恐怖の『獄門島』事件 爪切りへの長い道(前編)


 飼育中のできごとや、思いついたことをあれこれと書いていこうと思います。間違いや、悪影響を与えそうなことがありましたら、遠慮なくご指摘下さい( owlish@msj.biglobe.ne.jp まで)。


6.換羽 (2002.08.31)

 4月の下旬くらいから、ジェフくんの換羽が始まりました(いまだに続いています)。“鳥は繁殖期が終ると全身の羽を一定の順序で更新する”(岩波生物学辞典第3版より)――ということで、古い羽が少しずつ抜け落ちていくと同時に、新しい羽を包んでいた羽鞘の欠片が粉のように飛び散ります。ジェフくんは小型なのでまだいい方だと思いますが、掃除がちょっと大変です。

 羽の抜ける順序はよくわかりませんが、飛ぶのに支障がないよう、あちらこちらから少しずつ抜けていくのはなかなかうまくできています。もちろん、新しい組織を作るのにはその分余計にエネルギーが必要になるわけですから、いっぺんにではなく少しずつ、というのも当然かもしれません。

 というわけで、換羽期には体重をあまり落とさないよう注意すべきでしょう。ネクトンバイオなどの栄養剤も与えた方が望ましいのではないかと思います。

 なお、正常な換羽ではなく、病気やストレスによって抜けて(抜いて)いる可能性もありますので、十分にご注意下さい。




7.ティッシュと靴下 (2002.12.02)

 もともとハンターだからなのかもしれませんが、フクロウは物をかじる(噛みちぎる)のが好きなようです。うちのジェフくんの場合は、止まり木に貼りつけた人工芝を噛みちぎろうとするので、人工芝が少しずつはげてきています。これには困ってしまったので、「動物堂アウルルーム」でやっていたのを参考に、最近ではティッシュペーパーを与えています。

 ティッシュを折り畳んで止まり木に置いておくとやがて、ジェフくんは足でしっかりと押さえて少しずつ噛みちぎります。(おそらく)本能的に目を半分閉じることもあって、ものすごく熱中しているように見えます。少しくらいなら呑み込んでもペレットとして出てくるはずなので安心です。一枚ちぎり終えると、止まり木の周囲はもう紙屑だらけ。

 しかし、ティッシュではすぐに終わってしまうため、どうも物足りなさそうです。何かもう少し歯ごたえ(?)のあるものはないかと考えるうちに、ふと思いついて、古くなった靴下(洗濯済み)を与えてみました。……うん、これはかなり充実感がありそうです。一心不乱に靴下を噛み続けるジェフくん。放っておくと、平気で2〜3時間やり続けます。ちょっとやりすぎのような気も……でも楽しそうだし……。

 2,3日たつと、だんだん問題が明らかになってきました。ペレットが毎日糸屑だらけなのです。いくら出てくるとはいえ、柔らかいティッシュと違って糸屑を呑み込んでしまうのは、飼い主としてさすがに不安になります。そして、さらにもう一つ、意外な落とし穴が……。

 ジェフくんは、遊んでいる最中に人間が近づいてくると、取り上げられるかも?と思うのか、靴下をしっかりとつかんだままお気に入りの場所へばたばたと飛んでいきます。ところが、ジェフくんの体重が100グラム程度なのに対して、靴下の重さを計ってみると25グラムほど。そう、靴下をつかんで飛び回ったジェフくんは、明らかに運動しすぎで、体重が予想より大幅に落ちてしまったのでした。

 結局、ジェフくんの靴下遊びは禁止。再びティッシュを与える日々が続いています。ただ、やはり物足りなさそうなので、何か他に適当な物はないか検討中です。




8.初めての狩り (2002.12.05)

 ある晩のこと。まだ餌をあげる前、部屋の中をうろちょろするのにも飽きたジェフくんは、ケージに戻ってぼーっとしていました。私は隣の部屋で待機。と、突然、“バサバサッ”という羽音が聞こえてきました。何かと思って見に行ってみると……。

 ケージから飛び出して止まり木に止まったジェフくんの口元に、何か黒いものが見えます。そして、トゲトゲした細い脚……そう、それは ゴキブリ でした。

 我が家ではずいぶんと見かけていなかったので、すっかり油断していました。慌てた私は、何とか取り上げようと思ったのですが、すでにいかんともし難く……。

 その後は心配だったのですが(危険な殺虫剤はかかっていないはずですが、やはり雑菌が……)、ジェフくんはいつもの餌も普通に食べ、翌日にはキチン質の混じったペレットが。幸いにして体調を崩すこともなく、数日が過ぎるとこちらもようやく安心しました。と同時に、思い出されるのが、ジェフくんがその直後に見せた何となく得意そうな顔。確かに、動きのすばやい“アレ”をよく一撃で仕留めたものだと感心します。(おそらく)生まれて初めての狩りを、野生の本能で難なく成功させたジェフくん。そう考えると、こちらまで誇らしい気持ちになってくるから不思議なものです(←すっかり親バカモード)。

 とはいえ、やはり“アレ”には気を付けなくては……。みなさんもご注意下さい。




9.恐怖の『獄門島』事件 (2003.01.24)

 ……その恐ろしい事件は、2002年3月のある朝に起こりました。

 ジェフくんがケージの中でバタバタ暴れる音がしたので、妻が様子を見に行きました。と、途端に「早く来て〜!」と叫んでいます。朝っぱらから何事か? と思いながら見に行ってみると、そこには……ケージの扉に張られた網に逆さ吊りになったジェフくんの姿が!

 とっさに頭の中に、横溝正史『獄門島』に登場する、「鶯の身を逆{さかさま}に初音かな」という其角の俳句(注)が浮かんでしまったのは、ミステリファンの悲しい性{さが}か……などと馬鹿なことを考えている余裕はまったくありませんでした(ちなみに妻の方は、朝の薄暗い光の中でよく見えなかったこともあって、一瞬「コウモリ?」と混乱してしまったそうです)。

 扉の網にしがみついて、部屋の様子を確認するような行動は時々見せていたのですが、ブリーダーさんのところで付けられた足環(切れ目のある“C”字形のもの)が網に引っかかってしまい、動きのとれない状態で力尽きて、さかさまにぶら下がってしまったようなのです。

 これ以上体重がかかり続けると、足を痛めてしまうのは間違いありません。それどころか、逆さになった状態が長く続くと命に関わる危険性もあります。私は急いでケージの扉を開き、とりあえずジェフくんの体を手で支えました。が、無防備な状態で体に触られたジェフくんの怒ること。単に触られるのが嫌なだけでなく、どうやら私が何か悪いことをしていると思い込んでしまったようです。

 我が家には足環を切断できそうな道具がなかったので、妻がハサミを持ってきて足環が引っかかった場所の網を切って、何とか無事にジェフくんを救出することができました。発見が早かったのが幸いして、特に怪我などもなかったようです。が、自由になったジェフくんは、早速私に対して威嚇のポーズを見せます。私のせいじゃないのに……(涙)。

 後日、動物堂へ爪切りに連れていった際に、ついでに足環も切断してもらい、“恐怖の『獄門島』事件”は完全に解決することができました。しかし、私はジェフくんにすっかり嫌われてしまい、事件は深い傷跡を残すことになったのです……(嘘/ジェフくんの態度はすぐに以前と変わらなくなりました)。

(注):『獄門島』では、若い女性の死体が梅の木の枝に逆さ吊りにされるという、この俳句に見立てた事件が起こります。




10.爪切りへの長い道(前編) (2003.08.11)

 今回は、2002年秋の大騒動のお話です。「動物堂」の皆様には色々とご迷惑をおかけしてしまいました。申し訳ありません。

 ジェフくんの爪がだいぶ伸びてきて、私の腕にも細かい傷がたくさんできるようになりました(私は革手袋を使っていません)。また爪切りの時期がやってきたのです。ジェフくんを段ボール箱に入れて「動物堂」へ連れて行き、爪を切ってもらわなければなりません。

 自力で爪切りをする場合でもそうなのですが、まず部屋を真っ暗にしてフクロウが動かない状態にする、というのが一般的です。しかし、我が家は構造上真っ暗にはしにくい上に、ジェフくんは暗いところではややパニック気味に暴れてしまうという困った特徴があります(もともとの個性なのか、それとも前回の爪切りの際にこの方法を試した(しかも失敗)ことで、嫌な記憶が残ってしまったのか)。完全に箱の中に閉じ込めてしまえば、かなりおとなしくなるのですが……。

 前回は、部屋を暗くして段ボール箱をかぶせるのは断念し、最終的にで段ボール箱の中に誘い込むことに成功しました。今回もまた、同じ手でうまくいくだろうと私は思っていたのですが、見通しが甘かったようです。

・最初の挑戦
[作戦1;模式図] 前回と同じように、餌でジェフくんを段ボール箱に誘い込もうとしました。具体的には、段ボール箱の片側を開けて入口とし、ピンセットで餌をつまんで入口付近に呼び寄せるという方法です(右図参照;クリックすると拡大図が別ウィンドウで表示されます)。
 しかし、前回で懲りたのか、ジェフくんはなかなか引っかかってくれません。入口付近までは来るものの、それより奥へは入ろうとしないのです。というわけで、やむなく断念。「動物堂」に「失敗しました」とキャンセルの連絡をしました(涙)。

・第2の挑戦
[作戦2;模式図] では、箱の奥から呼んでみたらどうか。ということで、箱の両側を開けて、奥から箱の中にピンセットを突っ込み、呼び寄せてみることにしました(右図参照;クリックすると拡大図が別ウィンドウ(上図と同じ)で表示されます)。ジェフくんに気に入られている妻が呼び寄せ&奥を閉じる担当、私が入口を閉じる担当です。
 最初は警戒していたジェフくんですが、箱の奥の方でピンセットがちらちら動いているのが見えると、少しずつ気になってきた様子。やがて、餌につられて箱の中に飛び込んできました。
 「よし!」と、二人で箱を閉じようとしたのですが、残念ながらジェフくんの反応が一枚上でした。奥(ジェフくんの正面)から強引に突破され、万事休す。その後は二度とジェフくんが引っかかることはありませんでした。「動物堂」に「また失敗しました」とキャンセルの連絡(涙)。

・第3の挑戦
 こうなると、長期戦も覚悟の上で、じっくりと対策を練る必要があります。日夜議論を重ねた私たちは、何とか二つの作戦をひねり出しました。
 まず一つは、ジェフくんを部屋に放している間、常に目につくところに段ボール箱を置いておくこと。段ボール箱の存在に慣れてもらい、箱に対する恐怖感を打ち消すのが狙いです。
[作戦3;箱の写真]  もう一つは、箱の改造です。暗いところが嫌いなジェフくんのために箱の中を明るくする。同時に、奥の蓋を開けることなく餌で誘い込むことができるようにする。そのようなコンセプトのもと、改造を行った結果が右の写真です( クリックすると拡大図が別ウィンドウ(上図と同じ)で表示されます)。奥の蓋を大きく切り抜いて窓を作り、そこに網を張りました(写真反対側からの写真;いずれも別ウィンドウ(上図と同じ)で表示)。網目の一部には切り込みを入れて、ピンセットが差し込めるようにしてあります。さらに、側面や上面にも明かり取りの小さな窓を作りました。

 改造した段ボール箱の両側を開けた状態で、目立つところに置いてみると……しばらくの間は警戒していたものの、やがて見慣れて平気になった様子。それどころか、トンネルをくぐるように箱を通り抜けて遊んでいるではありませんか! 予想以上に大きな前進です。すぐにチャレンジしたくなるところをぐっとこらえて、そのまま2週間ほど慣れてもらうことに。その間、ジェフくんは毎日くぐり抜けを繰り返し、かなり気に入ってくれたようです。

 そして、いよいよ箱入れにチャレンジ。網を張った方の蓋を閉じて、そこからピンセットを突っ込み、ジェフくんを呼びます……が、両側を開けた普段の状態より若干暗くなったせいか、どうも警戒している雰囲気。そこで、「明るくすればいいのでは?」と、小型のライトで上面の窓から箱の中を照らしてみました。明るくなった箱の中をのぞき込んだジェフくんはやがて、まだ少し警戒しながらも、餌につられて箱の中へと入っていきます。十分に奥まで入るのを待って、すばやく入口を閉鎖。成功? ついに成功です!

 まずはガムテープでしっかりと入口を封鎖します。箱の中に閉じ込めた瞬間はパニックになったジェフくんですが、真っ暗にならないようにしたのが功を奏したのか、やがてだいぶ落ち着いてきました。もう大丈夫。「動物堂」に「これから行きます」と電話をかけて、早速出かける準備を始めました。

 ところがその時、ジェフくんの部屋に残って様子を見ていた妻が、慌てた声で私を呼びます。「何だろう……?」 急いで行ってみると、そこには予想もしなかった恐るべき光景が……。

次回に続く)




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