1 なぜ今特別活動なのか
文科省教科調査官:杉田洋氏の指摘する5つの危惧
昨今のいじめや不登校などの社会問題化により,保護者も子どもも,そして教師も「子どもたちの
人間関係のトラブル」への過剰反応がみられ,これが集団生活や集団活動への手かせ足かせになり,
ひ弱な集団活動になっている側面がある。具体的には,
@人間関係のトラブルの子どもの安易な訴えと大人の即時介入
A相手を責めたり,批判したりしない建前優先の話し合い活動や表面的な人間関係
B他者と競い合ったり,切磋琢磨したりする活動の低迷
C人の先頭に立ち,リーダー役に挑戦したり,リーダーシップを発揮しようとしたりする意欲の減
退
D人間と人間が本気で関わる活動の衰退
などはその例である。このような状況は実生活の中で人間関係を学ばせようとする特別活動の衰退
を招く。 〈初等教育資料18年 度5月号〉
(1)特別活動のねらい
@ 心身の調和のとれた発達を図る。
A 個性の伸長を図る。
望ましい集団活動を通して B 集団の一員としての自覚を深める。
C 協力してよりよい生活を築く。
D 自主的,実践的な態度を育成する。
*望ましい集団活動を通して…「特活」固有の文言
(2)特別活動の4つの内容
・学級活動
・児童会・生徒会活動 それぞれの目標を十分把握する。
・クラブ活動 〈 評価規準もそれぞれ必要 〉
・学校行事・・・・「行事で育つ力」を意識する。
(3)「学級づくり」の重要性を再認識
・好ましい人間関係に基づいた望ましい集団活動が推進できているかどうか。
学級づくりはすべての教育活動の基盤となるもの。
「楽しいクラス」→だれもが主役になれる学級づくり,子どもたちが主役の学級づくり
自己存在感・自己有用感が感じられる学級づくり
・とりわけ学級活動の充実を。
2 とりわけ学級活動を大切に
・学級経営……教師の視点 → 学級活動は学級経営の中心的な手だて
・学級づくり…子どもの視点 → 教師も学級成員の一員(子どもとともに)
(1)学級活動のねらい
学級を単位として,学級や学校の生活の充実と向上を図り,健全な生活態度の育成に資する活動
を行う。
(2)学級活動の内容
〔第1学年及び第2学年〕
学級を単位として,仲良く助け合い学級生活を楽しくするとともに,日常の生活や学習に進ん
で取り組もうとする態度の育成に資する活動を行うこと。
〔第3学年及び第4学年〕
学級を単位として,協力し合って楽しい学級生活をつくるとともに,日常の生活や学習に意欲
的に取り組もうとする態度の育成に資する活動を行うこと。
〔第5学年及び第6学年〕
学級を単位として,信頼し支え合って楽しく豊かな学級や学校の生活をつくるとともに,日常
の生活や学習に自主的に取り組もうとする態度の向上に資する活動を行うこと。
〔共通事項〕
(1) 学級や学校の生活づくり
ア 学級や学校における生活上の諸問題の解決
イ 学級内の組織づくりや仕事の分担処理
ウ 学校における多様な集団の生活の向上
(2) 日常の生活や学習への適応及び健康安全
ア 希望や目標をもって生きる態度の形成
イ 基本的な生活習慣の形成
ウ 望ましい人間関係の形成
エ 清掃などの当番活動等の役割と働くことの意義の理解
オ 学校図書館の利用
カ 心身ともに健康で安全な生活態度の形成
キ 食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成
〔内容(1)と 内容(2) 〕
・内容(1) 学級や学校の生活の充実と向上に関すること。
*学級や学校における生活上の諸問題の解決(話し合い活動),学級内の組織作りや
仕事の分担処理(係活動)
・内容(2) 日常の生活や学習への適応および健康や安全に関すること。
*希望や目標を持って生きる態度の育成/基本的な生活習慣の形成/望ましい人間関
係の育成/学校図書館の利用/心身ともに健康で安全な生活態度の育成/学校給食
と望ましい食習慣の形成
(3)内容(1) と(2)のバランス
・低学年…内容(2)が多くなる。低学年ほど
・高学年…内容(1)中心へ移行
(4)「学級目標」を大事にしたい。
・学級経営目標(教師の目標)/学級目標(子どもたちの目標)
・学級づくり・・・・学級目標達成に向けた取り組み。これを受けた小集団や個の目標を立てる。朝の
会や帰りの会で定期的な評価活動を。
・スローガンではなく,目に見える形で具体的に設定する。…評価しやすく
3 係活動を中心においた学級づくり〈私の実践を中心にして〉
係活動は,学級生活の充実と向上をめざし,学級内の仕事を分担処理するために,自分たちで話し
合って係の組織をつくり,全員で分担しながら自主的に行う活動です。
この活動は,子どもたちの興味・関心をはじめ遊び心なども生かされ,発達段階や今までの活動歴
によって大きく左右されます。また,活動する時間帯も学級によって多様で,学級の独自性(学級カ
ラー)が出やすい活動です。
また,係活動のねらいは,子どもの力で学級生活を豊かにすると共に,係活動を通して「自己存在
感」「自己有用感」「集団への所属感」「責任感」「企画力,実践力」など子ども一人一人 の成長
を促すものです。
(1)係活動とは
・学級生活の充実,向上のために必要な仕事を分担・処理していく活動
・当番活動…学級運営のために不可欠,誰もが経験した方がよい学級集団内の仕事
例:そうじ当番や給食当番,日直
・係 活 動…学級生活をよりよくしていくための仕事
学級生活向上のために創意工夫,発展的活動
― 係活動編成の基本 ―
学年 |
人数 |
ねらい |
1年 |
1人1役から |
・自分の仕事をきちんとこなし,実践能力を養う。やり遂げた充実感を味
わう。
・自己有用感 |
2年 |
2〜3人1役 |
・2人で相談しながら,力を合わせてやり遂げる。自分の思いだけでなく
2人以上での話し合いや実践を経験させる。 |
3年 |
3〜4人1役 |
・しだいに係の人数を増やし,話し合い,力を合わせてやり遂げる。多人
数であればかなりのことができる。
・学級に貢献した喜び。もめることもあるだろうが,それがよい体験とな
る。 |
4年 |
5年 |
5〜6人1役 |
・さらに人数を増やし,本格的な小集団活動に取り組む。数人で話し合い
分担・協力してやり遂げる。 |
6年 |
(2)ねらい
・自己の責任を果たすと同時に,学級生活の向上を目指す。
・学級内の好ましい人間関係を育て,思いやりの心を育てる。
・様々な活動への実践力(みんなで話し合って決め,みんなの力で実践する)を育てる。
・個性を発揮させ,集団の中で個を生かし,一人ひとりを育てる。
(3)実践計画
ア 係の設定と所属の仕方
・学級目標の実現に向かった積極的な設定の仕方。(学級目標の実現に向けた係組織)
・個を生かす,個性が発揮できるような係活動とする。
・ 魅力あるネーミング
イ 活動しやすい組織作り
・弾力的に。不具合が生じたらいつでも話し合って改組していけるように。
ウ 活動計画をしっかり立てる
・常時活動と発展的活動(学級生活の向上を目指した活動)
・係間の全体の計画・調整も忘れずに。
エ 活動時間の確保
・朝の会や帰りの会を活用する。学級活動の時間を定期的にあてる。週活動計画を。
・生活班と係を同一にすることのメリットを生かす。
・放課時の活動はできるだけさけたい。
―週活動サイクルの例―
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月 |
火 |
水 |
木 |
金 |
朝の会 |
係連絡 |
係連絡 |
係連絡 |
係連絡 |
係発表会準備 |
給食後 |
係の仕事 |
係の仕事 |
係の仕事 |
係の仕事 |
係の仕事 |
帰りの会 |
議題の選定 |
議題の選定 |
プログラム作成 |
プログラム作成 |
係の仕事 |
学級活動 |
|
|
|
|
係活動発表会
学級会
|
オ 活動環境の整備
・空いたロッカーなどをそれぞれの係に割り当てる。また,段ボール箱などを用意し,製作途中
の掲示物などを入れる。
・誰もが自由に使える油性ペン,はさみ,のり,セロテープなどを入れた道具箱を用意する。
・「学級会コーナー」「係コーナー」等,係が自由に使える掲示コーナーを用意する。
・いつまで掲示するかをはっきりさせておく。短いサイクルで更新する。
・活動をふりかえるカード(自己評価,相互評価)などで,子ども同士の心の交流を図る工夫を
する。
(4)実践上の留意点
ア 好ましい人間関係を育てることを十分に意識した指導を
・活動を通して友だちの良さを知る。お互いにカバーし合っていく思いやり
・やり遂げた喜びを味わい,自己存在感,自己有用感を体感する。
(教師の声かけ,係ノートへの朱書きなど)
※ 係ノートは必ずつくる。集まって何かやったら必ず記録しておく。そして朱書きを忘れず
に。実践を認め,ほめる。
イ 常時活動と発展的活動の区別を
・学級を明るく楽しくしていく発展的活動に力を入れる。(目玉仕事)
・子どもたちのアイデアあふれる楽しい計画
・それぞれの個の良さを発揮させる。個性を発揮させる場ととらえる。
絵を描くのが得意な子はポスターづくり,作文が得意な子は宣伝文句づくり,
花が好きな子がいれば草花コンクール,〇〇が得意な子がいればその子を生かすために〇〇大
会を開く,といったように。だれもが主役になれる場を設定する。
・どの係も1回は楽しい目玉仕事の実践を。
・実践したら反省を。次へのステップアップを図る。
ウ 他の係への関心を高める
・学級全員で協力していく。他の係の行事に積極的に参加する。係活動発表会を活用。
エ 掲示物を充実させる
・係活動のコーナーを設置し,その時その時の生きた情報を掲示する。
・流れうごく生きた掲示
オ 係活動発表会を開く
・定期的に(学級活動の時間に隔週)実施
・活動状況を発表しあい,質問や意見を受け,お互いに活動を高めていく。(相互評価)
・最優秀係(もっとも学級の向上に尽くした係)を決めてもよい。
○ 係発表会のプログラム
1 今,力を入れている仕事 3 みんなからの注文
2 みんなへのお願い 4 先生から
* 答えられない質問が出たりしたら,翌日の朝の会で回答するなど,責任を持たせることが
大事。
カ 評価は子どもサイドに立って
「あの係,楽しいことをやってくれてよかったね」
・子どもの目で見る。実施したらまずほめる。
・子どもたち同士での評価も有効
・評価の視点は「学級の向上に尽くせたか」「学級のだれもが楽しさを味わえたか」「係のメン
バーみんなが活躍できたか」「計画をきちんとたてて進められたか」など。
―評価方法―
・朝や帰りの会での「係からの連絡」から
・新聞やポスターを使った広報活動から 相互評価
・係活動の発表会から
・学級通信でこまめに保護者に活動状況を知らせ,意見や感想を受ける。
・ほめることを中心とした評価をこまめにし,子どもの意欲の継続を図る。
キ 生活班と係を同一組織に
・いつでもすぐに話し合いができる。
・日直を週直にする。→班で担当する。
ク 学級通信の活用…週1回の発行
(5)実践事例 ― 係活動の編制と所属のさせ方 ―
○ どんな係をつくるか
係活動は学級生活の充実,向上のために必要な仕事を分担・処理していくための活動です。そ
して,ある程度の期間同じメンバーで,継続して分担していくものです。このことを子どもたち
によく理解させ,どんな係が必要か子どもたちといっしょに考えます。
ここでいう「学級生活の充実,向上」の内容は,学級目標達成を十分に意識してください。セ
ットで実践するとたいへん効果的です。
○ 係組織の決定
ここでは,仮に「新聞係」「保健係」「図書係」「レクレーション係」「体育係」「飼育・栽
培係」の6つの係ができたとします。
○ 所属の決定
私は生活班と係を同一としていました。つまり,生活班で係を受け持つのです。
生活班(だいたい5〜6人)は6つでした。当然,席は集まっています。この班でどの係を担
当するか話し合います。
その結果,次のようになりました。
1班:飼育・栽培係 2班:新聞係 3班:保健係 4班:図書係
5班:レクレーション係 6班:レクレーション係
さあ,レクレーション係が重複してしまいました。どうしますか?私は希望通りそのままやら
せました。つまり,レクレーション係が2つ存在するのです。ということは,体育係がありませ
ん。何はともあれ,活動をスタートさせるのです。
じゃんけんか多数決で決めるものと思っていた子どもたちは,「えっ?」という顔をしていま
す。子どもたちの常識を覆すやり方です。とにかく,この体制で活動をスタートさせます。
○ 立て直し
それぞれの係が「常時活動」は当然のこと,「発展的活動」の計画を立てていきます。1ヶ月
もすると,子どもたちから「先生,レクレーション係は2つもいらないよ」という声が上がって
きます。また,「先生,やっぱり体育係はあった方がいいよ」という声も上がります。(上がっ
てこない場合は,そういう声が上 がるように,ときどき声かけをするのです。たとえば,
「体育係がないから不便だなあ」「レク係がやっている活動,よく似ているなあ」など)。
そういう声が出たところで,もう一度学級会を開きます。そして,係組織について,今までの
経過を踏まえた上で,じっくり話し合います。ついでに,それぞれの係のふり返りもします。
こうして改善した組織は,その後とても順調に動いていきました。
*注:生活班と同一でない場合も,同じ方法で実践可能です。
4 各教科,道徳,総合的な学習の時間との連携
→「場」を意識的につくっていくことを忘れずに!
特別活動の特質である集団活動を充実させるためには,各教科等の学習で獲得した関心・意欲・態
度,知識や技能などが集団活動の場で総合的に生かされ,発揮されることが必要となる。その結果,
集団活動で培われた自発的,自主的な態度が各教科等の学習によい影響を与えることになる。
・各教科での実験や調査活動などグループで課題を解決する学習では,役割を分担しながらみんな
で協力して計画,実践,評価することが大切。
また,係活動で必要な調査・統計・結果の表示などの基礎となる能力は,算数科や社会科等の 教科で培われる。
・道徳の場合,実践的な係活動を通して集団の一員としての自覚を深めるとともに,友達と助け合
いながら学習や生活をしようとする態度,集団に主体的にかかわっていこうとする態度など,望
ましい道徳性を身に付けることが可能となる。
また,道徳の時間に育てられた道徳的な心情や判断力は係活動を支え,推進する力となる。
・総合的な学習の時間の場合,最も効果的に左右する。総合では,子どもが問題の解決や追究活動
に主体的,創造的に取り組むことが求められる。そこでは,計画や運営などで係活動で身に付け
た自発的,自主的な組織づくりや活動の進め方が応用され,発揮される。
5 むすび
学級会活動,とりわけ係活動は,子どもたちが主体的・創造的に活動しながら,よりよい学級生活
を築いていく活動である。
係活動を通して,子どもたちは,自分や友だちの願いを理解し,それを生かしていくことの大切さ
に気づくであろう。また「みんなの役に立っているんだ。みんなもそ れを認めてくれたんだ。」と
実感するであろう。このことにより,好ましい人間関係が醸成され,いじめやトラブルのない,明る
く楽しい学級が創りあげられることであろう。
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