「超 クルマはかくして作られる」

04年8月21日


 

クルマ本最高の一冊(二冊)

と思います

 
夏休みに福野礼一郎さんの 「超 クルマはかくして作られる」 を読みました。

内容はカーグラフィックに連載していた 「クルマはかくして作られる」 を単行本にまとめたもので、既に一冊目が出ていてこれはその続きです。
先に出たのは木、革、ガラス、内装などが中心でしたが、今度のものはクルマのクルマたる部分、つまり車体、ブレーキ、スパークプラグ、ダンパー、ピストン、ATなどです。もちろん最後がエンジンですね。
カーグラフィックの 「クルマはかくして作られる」 は時々読んでいてなかなか価値のある内容だな」とは以前から感じていましたが、夏休みを前にニ玄社書店を検索して単行本の存在を知り早速注文しました。

読み出してみて 「これはすごい本だ」 と思いました。とにかく内容が濃いです。
福野さん自身がよく下調べし、勉強してから取材し、取材した後またよく調べてから書いていることがよく分かります。
こう言うものはえてして技術者が言った事をそのまま書き記すということが行われがちですが、福野さんは自分でよく理解してから書いてますね。
だから読んでいて飽きないし内容が深いし、途中からページが尽きるのが惜しいと思いながら読みました。こういう経験はなかなかないものです。
また読者に面白く読んでもらおうとする努力も感じられます。

日本の自動車部品はかくも緻密に、膨大なエネルギーを投入して、様々な工夫と創意を凝らして作られているのだということがよく分かります。
ATのアイシンワーナー社が現在のアイシンAW社に至った歴史的経緯なども興味深いものでした。
恐らくこれまで日本で出版された一般の自動車ファンを対象とした書籍の中でもっとも価値があるものではないかと私は思います。

作り方だけでなくその部品の作動原理なども解説してあるのでこれまで分からなかったことが随分分かりました。
バネがへたる、とよく言われるのは自由長が短くなると言うことであってバネ定数は小さくならない、メタルは始動する時には油膜が切れているからそこで一瞬固体接触がある。
前々からそうじゃないかと思ってた事も沢山書いてありました。

そしてピストン工場の取材がアート金属工業。
この本の中に出てくる会社名で私が唯一初めて聞いた名前の会社です。
それでこの会社の前身が本田宗一郎さんが丁稚奉公に出たあのアート商会だとは。
しかもアート商会の名称は創業者である榊原さんが1916年に浜松で見た航空ショーを行なったアメリカ人飛行家の名前アート・スミスに由来するとあります。
その航空ショーはもちろん本田さんが子供の頃に場外の木によじ登って見て大きな感銘を受けた話は有名です。これは初めて知りました。びっくりですね。

もう一つ。エンジン工場(トヨタ自動車)では兼坂弘という人物の話が出てきます。
この方は元いすゞのエンジン設計者で退職後はエンジンコンサルタント業をしながらモーターファンに 「兼坂弘の毒舌評論」 を書いていたとあります。
モーターファンといえば戦時中のエンジンの大家、富塚清さんが寄稿し後に富塚清さんの弟子であるホンダF1の中村良夫さんも寄稿した雑誌です。
という事は兼坂弘さんも富塚清さんの弟子なんでしょうか。

モーターファンではホンダのF1チーム監督であった桜井淑敏さんとの誌上座談会で桜井さんにV10を止めてV12にしろと迫ったそうです。
インターネット検索によれば兼坂弘さんの 「毒舌評論」 はモーターファンの三栄書房から 「究極のエンジンを求めて」 という書名で出版されている様です。
既に絶版のようですが、探して読んでみたいですね。

福野礼一郎さんが書いたものはこれまでカーグラフィックの 「クルマはかくして作られる」 を時々読んだ以外には双葉社から出ている 「自動車ロン」「またまた自動車ロン」「ほめずにいられない2」 を以前に読んでいますが、これも 「異色の自動車評論家」 を感じさせる面白いものでした。
もちろん先に出版されている 「クルマはかくして作られる」 もすぐにニ玄社書店に注文しました。

福野さんは 「自動車評論家。20年やって見て作りもせずにケチだけつけるこの仕事に行き詰まリ、それが本シリーズ執筆の動機である」 と書いています。
そう言えば小林彰太郎さんは30年ほど前にカーグラフィック誌上で 「自動車メーカーに勤務経験のある人に編集部に来てもらいたい」 という事を言ってました。
「作る」 ということの意味をよく知るということ。これは貴重なものだと思います。

なお上記の富塚清さんに付いて知りたい方は当HP 「本田宗一郎の真実」 をご覧下さい。また「究極のエンジンを求めて」は後に読みました。

 
これもまたおもしろいです

双葉社

 

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