10月25日の土曜日に、ピーター・サヴィル展に行ってきました。

Peter Savilleはアート・カレッジの在学中に、揺籃期にあった伝説のレーベル“factory”に飛び込み、ファクトリーのクラブ・イベントのポスター制作から始まり、joy division、new order、roxy music、近年ではsuede、pulp、gay dadのアルバムのカバー・デザインの他にDior、Givenchy、ヨージ・ヤマモト等、ファッション界での仕事でも著名な英国グラフィック・デザイン界の最重要人物です。

回顧展のオープニング・イベントとしてその日はトーク・ショウが開かれました。talk show host は雑誌cutのアート・ディレクションも手がける中島英樹氏です。

またも取り組みの甘い私は、2日前にトーク・ショウのことを知りました。すでにチケットぴあでは完売!(凄い人気です)ということがわかり、出鼻を挫かれたようで、思わず行く気が失せそうになったのですが、トーク・ショウは見られなくてもがんばって初日に行くことにしました。

土曜日の表参道は人通りが多く、しかも歩くのが遅い人ばかり、取り壊された同潤会アパート跡を囲む果てしなく長いフェンスに美しく記された安藤忠雄の名前を尻目にラフォーレへ急ぎました。思いかげず嬉しいことに、立見でしたが当日券(1,500円)が会場で発売されていて、迷わずチケットを購入。展示(700円)を見ながら午後7時開始のトーク・ショウを待つことにしました。

会場にはsavilleの作品と、アイディアの元になった資料、制作過程がわかるような資料が宝石店のような立体的なケースに整然と収められて展示されてました。new orderのジャケットがほとんどです。new order とfactoryの部屋、ヨージ・ヤマモトの部屋を通って、最後の部屋へ。入り口には液晶ディスプレイがずらりと並び、その中のひとつにsuedeのシングルのカバー・デザインが次々と映し出されていました。展示はcoming up のLPがpulpのthis is hardcoreのLPと並べて飾られていました。そのほかはCDのサイズだったので、ファンとしては誇らしい気持ちになりました。

展示そのものは会場が小さく、簡単に見れば30分もあれば見終わってしまう規模です。ですが多様なアイディアに圧倒されたというのが私の感想です。トーク・ショウが楽しみになってきました。

立見と言えども整理番号がついていて、その順番どおりに入場すると、椅子席わきの通路の前の方でけっこう見える良いポジションでした。

saville氏登場、そして着席。彼は1955年生まれ。誕生日がくれば48歳です。とても若く見えました。髪もいっぱい(ううっ、まっ…以下自粛)あるし、痩せ型でしなやかな身のこなしです。着ていたジャケットを脱ぐと床に置き、イームズのアームシェルチェアに浅く腰掛けて大きく足を組み(片方の膝にくるぶしを乗せるアレ)、背もたれに思い切り寄りかかりながら髪をかきあげました。うわーっ!どういうオッサンだー? と、思いましたがどうも緊張して構えてしまっていたようです。対談が進むと、深く腰掛けぴったりつま先まで脚をそろえて両手を腿の下に入れてうつむいて背中を丸めてみたり、可愛い姿勢もとってました。

話の内容はnew orderの仕事が主で、suedeの“す”の字も出てこなかったのは…あたりまえだったかもしれません。しかもホストの中島氏がnew orderがらみでsaville氏のファンになったと、のっけからうれし恥ずかしく告白。ギャラリーは告白タイムに付き合わされた形になりました。あんぐり。

彼が強調していたのはお金のためだけではない、ということ。良いものを良くデザインして売るのはいいが、悪いものをいかにも良いもののように美しくデザインするのは心が痛む、そうです。最近、仕事を選びすぎて電話を止められてしまった話をしていました。まぁ、peter savilleほどの人になれば多少選んでも仕事の依頼が途絶えることはないでしょう。とはいうものの生活のためには、やっぱりお金は必要!なので多少は自己を曲げざるを得ない。と、至極まっとうなことを述べておられました。かなり率直で理想主義、信じるものを追求してきた25年間だったのでしょう。大変なこともあったと思います。そんな生き方を通してきたsaville氏にトーク・ショウの終わり頃には好感を抱くようになりました。最初はびっくりしましたけど。

大きな拍手でショウが終わり、会場から出るとサインをもらう人の列が…!今日、トーク・ショーが見られるとわかっていればうちにはcoming upやhead musicのLPだってあったのに!慌ててsavilleの初めての本“Designed by Peter Saville”を売店で買うとサインの列に並びました。ようやく自分の番になりました。私は“electricity”のところにサインをしてもらいました。suedeのページを開いたときの反応が面白かったです。「おう、すうぇいど!」と言ってましたねー。一緒に仕事をしたのは3rd、4thの2つのアルバム。3rdのシングルはすべて彼が手がけましたが、head musicのシングルはelectricityまで、she's in fashionには何のクレジットもありません。ご無沙汰なんです。彼は一体どんなことを考えたのでしょう。一緒に行った友人が英語が堪能で、「彼女はsuedeのすごいファンなんです」と言ってくれました。何か質問したら?と促してくれたのですが、質問しようとしたら、「質問はご遠慮ください」と側にいた係の人に制されてしまいました。saville氏は「そんな固いこと言わなくてもいいのにねぇ〜」のような表情を作ってくれました。何か聞いたら気軽に話してくれそうな雰囲気でした。とても柔軟性があって、人間的。大人の落ち着きと、子供の好奇心が
程よく調和して、非常に魅力的な人物でした。

家に帰ってから興奮冷めやらず、ネットでいろいろ検索してみたのですが、出てくるのは回顧展の情報ばかりでした。そのなかで“pause”という映画雑誌のバックナンバーにsavilleの名前を発見、早速バックナンバーを注文してしまいました。
取り上げられているのは“factory”を題材に描いた“24hour party people”についてのsavilleのインタビューです。当の本人は映画に批判的で、こんな風に語ってます。

「この映画はトニー(factoryの創設者)のコミカルな面ばかり強調して、シリアスなヴィジョンをもっていたことや知的な面を完全に無視しているんだ。ファクトリーの時代は本物だった。現代文化の真の革新に満ちた、正しい方向性を持っていた。ファクトリーとポップ・カルチャーの歴史についての最初の映画がコメディになってしまったことを、僕はとても残念に思っているんだよ。」

「トニーは芸術好きだけど、表現はできなかった。ファクトリーのアートは僕のビジョン、僕のアイデアそのものだったんだよ。僕にとって幸運だったのは、トニーが僕を信頼し、予算を超過しても何もかも好きなようにさせてくれたこと。だってトニーは予算なんか全然考えていなかった(だからfactoryレーベルは潰れてしまった)し、ビジネスセンスもゼロ。第一、ビジネスのためにファクトリーに係っていた人は誰一人いなかったんだから。それでもファクトリーの評判が良かったから、僕らはギリギリまで何とかやってこれたんだ」 

映画には美意識が高く、仕事は完璧だが締め切りを守らない、彼の別な“大物ぶり”の一面も描いてあるそうで、ネタにされた本人達は事実と違うことが多すぎると主張しているのですが、面白い作品のようです。

そんなわけで、今私はsaville熱に浮かされてます。本当に素敵な人でした(はぁと)

またsuedeとお仕事してくれないかなー。作品集にはかなりsuedeでのお仕事が収められていて、suedeには好意をもってるみたいですよー。「おう、すうぇぃど!」の、あのニュアンスだって悪いものではなかったです。ブレさまはサヴィルさんはもういいの?素敵なのに…。



− 関連サイト −

■ ラフォーレミュージアム原宿
   ピーター・サヴィル回顧展  11/9(日)まで。
   トップページに The Peter Saville Show のバナーが出るのでそこから入る。

■ Peter Saville Graphic Design
   自身のホームページ。“GALLERIES”で作品集の雰囲気が味わえる。
   もちろんsuedeのアルバムジャケットも飾られている。
   brett andersonについてのインタビューも載っている。

■ Design Museum
   ロンドン。2003年9月半ばまでここで回顧展が開かれていた。
   ミュージアムのデザインにsaville氏自身が携わっている。
   ホームページのデザインもsaville氏によるもの。
31st.Oct.2003
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