蒼井上鷹 04


ハンプティ・ダンプティは塀の中


2007/07/24

 本作は、東京創元社の若手専門レーベル「ミステリ・フロンティア」の1冊として刊行された。老舗の東京創元社が、蒼井上鷹を期待の新鋭と見込んだということだ。

 タイトルからしてマザーグース・ミステリか。東京創元社からは山口雅也さんの『キッド・ピストルズ』シリーズという傑作が刊行されている。が、マザーグースを連想させるのは、マサカさんというハンプティ・ダンプティのような体型の人物が出てくることだけ。

 正直マザーグースに絡める必要はまったくないと思うが、まあいい。肝心なのは中身だ。本作は極めて特殊な舞台で展開される連作短編集である。その舞台とはずばり留置場。だからタイトルは『ハンプティ・ダンプティは塀の中』なのだ。

 そんな本作を読み終わった印象は……「微妙」だ。「微妙」としか言いようがない。登場人物。事件の内容。提示される謎。謎解き。そして面白さ。すべてにおいて「微妙」なのである。留置場という舞台もやはり「微妙」。いっそのこと刑務所にすりゃいいのに。

 知られざる留置場内の日常は興味をそそるものの、せっかくの舞台を活かせているとは言い難い。いずれの事件も舞台が留置場である必然性がないのである。そして一応探偵役らしいマサカさん。かなりの切れ者と察せられるが、あまりにそっけない物言いをするもんだから、謎解きが盛り上がるわけがない。ただでさえ「微妙」なのに。

 最後の第五話で、マサカさんのそっけなさの理由が明らかになるのだが……やっぱり微妙なのだった。他にうまい手がなかったとは言わせない。わざとだろ?

 裏表紙の紹介文には「久々に登場した短編ミステリの名手」とある。その点についてまったく異論はない。『九杯目には早すぎる』『二枚舌は極楽へ行く』を読めば納得できるだろう。本作に関する限り、留置場を舞台にした連作という括りが、短編の名手にはむしろ妨げになってしまった感がある。蒼井さんの実力を買っているだけにもどかしい。

 第四話の趣向はなかなかのものだった、と少しだけフォローしておこう。蒼井上鷹なら、連作短編集の傑作も書けると思っている。もちろん長編も。



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