藤原伊織 08


ダナエ


2007/01/18

 広告畑出身の藤原伊織さんが広告業界を活写した前作『シリウスの道』は、気負いもてらいもない、個人的にも久しぶりのヒット作であった。最新刊は、美術界を描いた一編と広告業界を舞台にした二編からなる、『雪が降る』以来の作品集である。

 約半分を占める表題作「ダナエ」。画家の宇佐見が個展に出展した義父の肖像画に、何者かがナイフを突き立て、硫酸をかけた。会場となった画廊の信用に関わる大失態。普通の画家なら烈火のごとく怒るところだが、宇佐見のとった行動とは…。

 同じく美術をテーマにした『ひまわりの祝祭』に対し、僕は批判的な感想を書いた。その大きな理由は、才能を有しながら世捨て人同然に暮らす秋山に共感できなかったからである。宇佐見もまた藤原作品らしい超然とした人物だが、画家として才能は発揮している。

 やがてあぶり出される過去の闇…というほどではないが、まさに王道的藤原作品。あまりにも超然とした宇佐見は、真犯人より上手だったらしい。しかし、作品を傷つけるという行為は、ある意味本人に直接危害を加えるより許しがたいと個人的には思う。

 冒頭の女子サッカーの試合シーンが印象深い「まぼろしの虹」。以上。ええと、つまりどういうことなんでしょうか??? これは長編にすべきネタだろう。

 これまた王道的藤原作品にして本作中の一押し「水母」。昼から酒を飲み、愛読書は競輪予想紙の元売れっ子クリエーター麻生。そんな彼でも、かつての同僚であり、別れた元妻が気にかかる。彼女が直面した事態に対し、彼が打った手とは?

 落ちぶれようが何だろうが麻生はプロに変わりはない。広告業界の現場には様々なプロが集う。しかし、こんなのありか? プロを敵に回すのは恐ろしや…。デジタルアートってもんが純粋に芸術とは思えない自分は、古い人間なんだろうか。

 かっこつけどもが集まった作品集だなあ。でも読み終えると何だか頬が緩む。後味もいいので、藤原伊織を知らない人にもお薦め。



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