畠中 恵 14


いっちばん


2010/12/16

 しゃばけシリーズ第7作。基本的に、どの作品から読み始めても支障はないし、楽しめるしゃばけシリーズだが、本作に関しては、過去作品、少なくとも前作『ちんぷんかん』は読んでおいた方が経緯がわかりやすい。

 「いっちばん」。日限の親分は、通町界隈を荒らす掏摸(すり)に頭を悩ませていた。容疑者の目星はついているが、証拠がなければ迂闊に手を出せない。一方、妖たちは一太郎を元気づけようと、3組に分かれて贈り物を探しに行く。ドタバタの末に、贈り物探しが掏摸の手口解明に繋がるのはお約束。しかし屏風のぞきよ、なぜ春画など…。

 「いっぷく」。江戸では新参の小乃屋と西岡屋が、長崎屋に品比べを持ちかける。得意先を奪われかねないこの申し出を、主の籐兵衛は受けるという。一方、一太郎の周辺では気になる噂が流れていた…。商人としては、籐兵衛は一枚も二枚も上手でしたとさ。まさかあのエピソードと繋がるとは、意外なことは意外であった。

 「天狗の使い魔」。いきなり一太郎をさらう天狗。彼(という代名詞でいいのか?)は、一太郎の素性を利用しようとしていたのだった。天狗の割には動機が人間臭い。狐と狛犬の縄張り争いが絡んで事態はややこしいことに。で、一件落着なのか、これ?

 「餡子は甘いか」。三春屋から安野屋に修行に出ていた栄吉。修行先でもやはり苦戦していた栄吉だったが…何だ、一太郎との再開は思いのほか早かったじゃないか。栄吉が一太郎に一大決心を告げるとだけ書いておこう。 しかし、安野屋の主の虎三郎は、菓子作りの腕は確かなのかもしれないが…こんな事態を招いたのは虎三郎だ。

 「ひなのちよがみ」。『ねこのばば』の「花かんざし」、『おまけのこ』の「畳紙」に続き、お雛が3度目の登場。できれば「花かんざし」と「畳紙」は読んでおきたい。一色屋の危機に立ち上がるお雛だが、許婚の正三郎は甚だ頼りなく…。超心配性の仁吉と佐助が、一太郎の商人としての資質を試す、実に興味深い1編だ。そして正三郎は勝てるのか?

 栄吉、お雛、正三郎、そして一太郎。本作は、妖たちの活躍という点では物足りないかもしれないが、人間たちが悩みながらも成長していく姿に注目したい。



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