東川篤哉 03


完全犯罪に猫は何匹必要か?


2011/05/21

 烏賊川市シリーズの第3作。長ったらしいタイトルはどうにかならなかったのかという気がするが、内容は文句なし。個人的にはシリーズのNo.1に挙げたい。

 『招き寿司』チェーン社長の豪徳寺豊蔵が、鵜飼に愛猫ミケ子の捜索を依頼してきた。ところが、豊蔵は自宅のビニールハウスで殺害されてしまう。現場には、巨大招き猫が…。そのビニールハウスでは、10年前にも殺人事件が起き、迷宮入りしていた。さらに、豊蔵の葬儀会場で第2の殺人が発生。死体にはなぜか…。

 本作の読みどころの1つは、豊蔵の並々ならぬ猫への執着ぶりだろう。『招き寿司』の店舗前には巨大招き猫、通称ニャーネルニャンダースが鎮座。自宅玄関にも狛犬(いや、狛猫か)のごとき一対の巨大招き猫。家族でさえもミケ子には触れさせない。

 本格としての本作は、支障のない程度に述べるとアリバイトリックと物理トリックの融合なのだ。わははははは、誰かに再現してほしいぞこの仕掛け。『殺意は必ず三度ある』に匹敵する馬鹿馬鹿しさ。いやいや、しっかりと理論的裏づけがあるのだ。

 前作からの名誉挽回というわけでもないが、この仕掛けを解き明かしたのは砂川警部である。思い返せばあれは大ヒントだったわけだが、わかるかこんなもん。もちろん鵜飼も貢献している。彼が解いたのは、まず第2の殺人の謎。なるほどっ…てわかるかそんなもん。そして、そもそもの動機と、10年前の事件との繋がり。

 鍵を握るのは、猫に関するある薀蓄とだけ書いておこう。僕も聞いたことはあるが、まさかこんな応用をするとは。嗚呼、猫に翻弄される豪徳寺家の人々…。例によって、あらゆる伏線は過不足なく説明される。「共感」できるかは別として…。

 それにしても、デビューから3作連続で独創的傑作を送り出していたのに、なぜ初版当時は話題にならなかったのか。今回の東川篤哉ブームにより、普段本を読まない人も『謎解きはディナーのあとで』や『放課後はミステリーとともに』を手に取ったと思うが、一人でも多くの読者が初期作品にも注目してほしい。僕だってブームに乗っただけだが。



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