東野圭吾 54


さまよう刃


2004/12/22

 答えが出ないことは最初からわかっている。

 不良少年たちに蹂躙され、死体となって発見された娘の復讐のために、父は仲間の一人を殺害し逃亡する。「遺族による復讐殺人」を、センセーショナルに取り上げるマスコミ。真っ二つに割れる世論。「正義」の意味を自問自答しつつ、奔走する刑事たち。

 犯罪者への「復讐」あるいは「制裁」というテーマを扱った作品としては、宮部みゆきさんの『スナーク狩り』『クロスファイア』、貫井徳郎さんの『殺人症候群』などを読んだが、何度読んでも慣れることはないし、できれば避けて通りたい。読んでいて「重い」というのはもちろんだが、理由はそれだけではない。

 読者の立場から言えば、こういうテーマはある意味ずるい。作者は投げるだけ投げておいて、答えを示さないのだから。また、それぞれに趣向を凝らして作者のカラーを出そうとしているものの、「歯切れが悪い」点は共通している。これは作家の力量の問題ではない。このテーマを選んだ時点でわかっていたことなのだ。

 事件発覚から仲間の一人を殺害するまでは比較的あっさりと進み、性描写も極力省かれている。正直その点は助かった。東野さんらしい淡々と事実を述べるような文体も幸い(?)だった。この先は逃亡した一人の追跡行となり、エンターテイメントと割り切って読めなくはない。というより割り切るしかない。

 彼が序盤であっさりと一線を踏み越えてしまったため、感情移入を難しくしていると同時に、エンターテイメントとしては展開にやや緊迫感を欠いていると思う。キーパーソンの一人である「彼女」を、ここまで駆り立てたものは何か。勝手な言い分であるのは重々承知している。それが彼の、彼女の答えで、自分の答えではないから。ただそれだけだ。

 皮肉と言うしかない結末の後、物語中のある謎が明かされる。帯の文句にある「彼」とは、こちらの「彼」も指していたのだろうか。いずれにしても答えは出ない。答えを出さなければならない局面に陥らない限りは。



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