東野圭吾 72


あの頃の誰か


2011/01/21

 東野圭吾さんの新刊は、文庫オリジナルの短編集である。初出時期が'89年〜'97年と古い。あとがきによると、「わけあり物件」なのだそうだが。

 約80pとやや長い「シャレードがいっぱい」。遺産相続を巡る争い、ダイイング・メッセージ、男女のキャラクターと、2時間ドラマの原作にぴったりなバランスの良さ。決して揶揄しているのではない。惜しむらくは、時代がバブル真っ盛りであること…。

 「レイコと玲子」。うまく長編にアレンジすれば、本作と同時に文庫化された『ダイイング・アイ』より面白くなったように思う(失礼)。東野さん自身、内容に不満を感じており、今回最も手直ししたという。『ダイイング・アイ』も手直しはしたのだろうが…。

 因果応報、ブラックな味わいが光る「再生魔術の女」。東野作品としては珍しいタイプか。『怪しい人びと』の刊行に間に合わなかったのが惜しまれる。

 傑作『秘密』の原型になったという「さよなら『お父さん』」。出来がどうこうではなく、こりゃ端折りすぎだろう。長編に書き直して正解だった。

 嗚呼悲しき名探偵。最後の晴れ舞台が…「名探偵退場」。傑作『名探偵の掟』の原型かと思ったらやっぱりそうだった。本編自体はどちらかというと切ない。

 『輝きの一瞬 短くて心に残る30編』というアンソロジーに収録された「女も虎も」。心には残りません。お笑い路線か。「眠りたい死にたくない」。タイトルそのまんまのシチュエーションであることが、最後にわかる。これまたお笑い路線か。東野センセもお人が悪い。

 東野さん曰く最大の「わけあり物件」、「二十年目の約束」。担当編集者の言う通り、悪い出来ではないが、文章や展開など全体的にこなれていない感がある。

 全8編、現在ほど洗練されていないかもしれないが、若かりし頃の情熱が詰まった貴重な作品集と言える。ある程度東野作品を知ってから手に取るべきかな。



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