東野圭吾 81


祈りの幕が下りる時


2013/09/17

 加賀恭一郎シリーズも第10作に到達。第7作『赤い指』では、事件関係者の家族模様と同時に、加賀刑事の家庭事情も描かれ、父との関係が明らかにされた。

 以降、第8作『新参者』、第9作『麒麟の翼』と、家族のあり方をテーマにした作品が続いてきた。そして本作。序盤から、加賀刑事の知られざる家庭事情が再び明かされる。この事実が、現在進行の事件とどう関わってくるのか?

 東京・小菅のアパートで、絞殺死体が発見される。部屋の借主は行方不明。警視庁捜査一課から送り込まれたのは、加賀の従兄弟である松宮の係だった。一方、新小岩の河川敷では、ホームレスと思われる焼死体が発見されていた。

 捜査は難航を極め、松宮は加賀に相談する。そもそも、日本橋署の加賀にとっては管轄外である。同じ警察官とはいえ、従兄弟の気安さで部外者に相談する松宮に、おいおいと言いたくなるが、そんなことは些細な問題でしかなかった。複雑に絡み合う人と人の縁と、巡り合わせ。怒涛の展開に身を委ねるべし。

 元々一匹狼タイプの加賀である。本作でもスタンドプレーととられかねない行動が目立つ。特に、あれは違法スレスレ…というか違法ではないか??? ここまで必死に動くのは、やはり彼自身と関わりがあるからに違いない。そもそも、引き込んだのは松宮だが…。

 徐々に明らかになる、あまりに凄絶な人生。出来すぎなどと切り捨てるのは簡単だ。予期せぬ偶然から、こんな荒唐無稽な手段を思いついた。そして、その荒唐無稽な手段を可能にしたのは、ある業界の杜撰さだった。他の東野作品でも扱われたこの問題は、時事の問題でもある。作中に取り入れる手腕はさすがだ。

 根が誠実だったために、親切心を起こしたばかりに、結果的に破滅を招いてしまった。被害者といい、あまりに皮肉ではないか。情状酌量の余地はあるかもしれない。だが、それを決めるのは法廷だ。警察官として、加賀は目の前の犯罪を決して見逃さない。ガリレオシリーズと並ぶ東野圭吾さんの二枚看板として、今後も続編を望む。



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