稲見一良 06 | ||
猟犬探偵 |
稲見さんが亡くなった後に刊行された本作は、短編集『セント・メリーのリボン』の表題作に登場した猟犬専門探偵、竜門卓を主人公とする連作短編集である。作中でネタに触れている箇所があるので、本作を読む前に「セント・メリーのリボン」を読んでおくことをお勧めする。
第1話「トカチン、カラチン」が、本作中最も好きかな。「セント・メリーのリボン」の事件から一年後のクリスマス・イブに起きた、ファンタジックな物語。トナカイを連れた少年を追うという、いかにもクリスマスらしい話だが、ひねりがないなどと言ってはいけない。余韻を残すラストシーンが見事。
第2話「ギターと猟犬」は、猟犬探しという竜門の本業と、流しの艶歌師の物語がごっちゃになっていて、テーマがぼやけてしまっているかな。首を突っ込みすぎではないかい、竜門さん。大阪の繁華街を舞台にしているところは、他の作品とは一風変わっている。
第3話「サイド・キック」は、何とも壮大な逃避行を描いている。僕の実家に近い釜石という地名が出てきたのは、偶然とはいえちょっと驚いたが、それ以上にこの逃避行には驚いた。しかし、連れ戻された猟犬ファングのその後が気になる。
第4話「悪役と鳩」は…うーん、最後を飾る作品としてはどうなんだろう。詳しくは書かないが、それまでの流れがぷっつりと断ち切られる。この救いのなさは、ちょっと稲見さんらしくないような気がする。
中編「セント・メリーのリボン」が好きかどうかで、そのまま本作を気に入るかどうかが分かれるだろう。僕としては、『ダブルオー・バック』や『ダック・コール』の方がずっと好きかな。「セント・メリーのリボン」も含めて一冊にまとめていれば、また見方が違っていたかもしれないが。