伊坂幸太郎 18


オー!ファーザー


2010/04/05

 本作は、伊坂幸太郎さんにとって初の新聞連載作品である。2006年3月より、伊坂さんの地元の河北新報を始め、地方紙各紙で順次連載された。2007年12月には連載が終了したが、単行本刊行は2010年3月までずれこんだ。

 あとがきによると、書き上げた際に、「何かが足りなかったのではないか」との思いがあったという。なるほどと納得した。実は僕も、本作には物足りなさを感じた。伊坂流のユーモアに溢れた佳作ではあるのだが、大傑作とまでは言い切れまい。

 由紀夫には父親が4人いる。DNAが繋がっているのは、そのうちの1人らしい。主人公の名が現内閣総理大臣と同じなのは、わざとなのか。それはともかく、父親が複数という設定には前例があることを、伊坂さんご自身が明かしている。鷹、勲、葵、悟という四者四様の父親像は面白いが、混乱して読みにくいだけという気がしないでもない。

 伊坂さんも連載しながら悩んでいたのだろう。曰く、物語があまりに自分の得意な要素やパターンで作り上げられているため、挑戦が足りなかったのではないか。何様だと思われるかもしれないが、僕も伊坂作品に同様の危惧を抱いていた。

 本作に先行して、伊坂ワールドの集大成とも言える傑作『ゴールデンスランバー』が刊行された。そして、伊坂さんは決意したという。違うタイプの物語を書かなければならない。なるほど、直近の作品『あるキング』や『SOSの猿』には戸惑いを覚えずにはいられなかったが、それもそのはず、伊坂さんは新たな挑戦と試行錯誤の最中なのだった。

 さっぱり本作の感想になっていなくて申し訳ないが、クライマックスに至るとすべての謎が明らかになる快感は、他の「第一期」の作品に通じるものがある点には触れておきたい。惜しむらくは、由紀夫の母の知代がほとんど絡んでこないことか。

 第二期伊坂作品が完成したとき、ターニングポイントとしての本作の位置づけや価値が、初めて明らかになるのかもしれない。これからもずっと追いかけよう。



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