石持浅海 04 | ||
BG、あるいは死せるカイニス |
色物路線と紙一重な作品を立て続けに送り出す石持浅海さんを、現代本格の旗手と呼んでいいのかどうか、かなり悩ましい。文庫版解説でも指摘しているが、第4作『BG、あるいは死せるカイニス』こそ、色物路線の幕開けだったと言っていいだろう。
タイトルからして色物っぽいが、設定がもっとすごい。本作の世界では、人類は生まれたときにはすべて女性であり、一部が出産を経て男性に性転換するのだという。その設定だけを除けば、我々が生きている世界と同じ。こりゃどうしても警戒してしまうって。
ところが、読み終えてみれば実に面白かった。個人的には石持浅海作品のベスト1に挙げてもいい。色物もここまで極めれば賞賛に値する。色物路線の幕開けだった本作は、同時に色物路線の最高傑作だったのである。
文庫版解説によれば、本作の着想は山口雅也さんの大傑作『生きる屍の死』から得たという。山口さん同様に、石持さんも作品世界を緻密に作り上げることに成功している。思えば、『人柱はミイラと出会う』も『日本殺人事件』を意識していたのか。
誰からも慕われ、男性化候補の筆頭とされていた姉が殺害された。主人公の遙と姉の優子は異母姉妹。遙の父は姉の優子を生んだ後に男性化し、遙の母と結婚して遙が生まれた。つまり、遙の父は優子の母だった。……。そしてもう1人の犠牲者が。
学園を舞台に起きた2件の殺人事件と並行して、「BG」とは何か? という謎が読者をぐいぐいと引っ張っていく。この世界ならではの謎。論理展開。動機。登場人物の心情。あらゆる面で文句のつけようがない。シニカルな結末といい、自己矛盾的な終章といい、最後まで隙がない。突っ込むのが楽しみで石持作品を読んでいるのに。
石持浅海さんの作品世界の着想は、常に優れていると思う。ただ、近年の作品は作り込みがやや甘かった。これほどの作品が書けることを知ってしまった以上、次回作への期待はいやがうえにも高まる。また突っ込むことになっても許してください。でも、突っ込む点がないほど完璧にされても、それはそれで寂しいような…。