古処誠二 06 | ||
接近 |
今から思えば、三作目の『未完成』から古処誠二は「戦争」というテーマに傾倒しつつあった。四作目の『ルール』を読み終えた時点では、ここまで深く傾倒するとは予想していなかった。そして届けられた、三作連続となる戦争もの。
前作『分岐点』における、頑なに皇国民であり続けた13歳の少年。本作でも、11歳の少年は皇国民たろうとする。軍を批判する大人たちを蔑視する。しかし、軍を、皇国の勝利を信じる少年の心は揺れる。この点が前作との大きな違いである。
前作でも本作でも、戦況の悪化につれて国民は疲弊していく。米軍の圧倒的軍事力の前に恐怖感が麻痺していく。このような描写は、知らずに読めば戦後世代が書いたとは思えない説得力を持つ。当然取材はしただろうが、迫真の筆致を生む源はどこにあるのか。
今回も唸らせる一作に仕上がっている。だが、戦争ものが続くにつれて読者である僕の感覚も麻痺してきたようだ。『分岐点』で『ルール』ほどの衝撃は受けなかった。そして本作『接近』に『分岐点』ほど感じるものはなかった。それが読み終えた後の偽らざる思いである。古処誠二の作品でなければ、わざわざ戦争ものを手に取りはしない。
舞台は、大本営と米国の間で翻弄された沖縄。現在にも通じる、沖縄が置かれた特異な状況は特筆に値するが、物語としては本土(嫌な言い方だ)を舞台とした前作と似通っているのは否めない。本作はノンフィクションではない。あくまで小説なのだ。
本作のポイントとなるあるキーワードが、かすかなミステリーの香りを漂わせているのが救いかもしれない。たとえ僕の思い込みに過ぎないとしてもだ。
古処誠二はミステリーから離れようとしているのだろうか。その真意を確かめる術はない。僕は次作以降も読み続けるだろう。出会うはずのない頑なな作家に、少しでも接近するために。彼がミステリーを捨てていないことを、信じていたいから。