京極夏彦 15 | ||
今昔続百鬼―雲 |
『百鬼夜行―陰』、『百器徒然袋―雨』に続き、京極堂シリーズ外伝の第三弾(と思っていいのか?)が刊行された。何と今年三作目の新刊である。ファンとしては京極さんに感謝せねばなるまい。
今回の中心人物は、自称妖怪研究家の多々良勝五郎先生である。誰それ? と言われそうだが、『塗仏の宴』に京極堂の友人として登場している。語り部を務める相棒の沼上と共に、全国各地の怪異を追い求めては事件に巻き込まれる。
読みどころは、多々良先生の暴走ぶりだ。沼上じゃなくても一緒に旅をするのはご勘弁願いたい。この先生の辞書には「計画性」という文字はない。こうと思い立ったら最後、相棒は振り回されるしかない。遭難して死にかかろうがまったく懲りないのだ、この人。博識ぶりだけは大したものだが、それを差し引いてなお余りある迷惑さ。
河童に噛み殺された男だの、物忌みの村を徘徊する怪人だの、絶対に負けない賭博師だのという胡散臭い事件の数々。真相そのものはともかく、事件の背景の複雑さは京極作品ならでは。しかし、深刻なはずなのにちっとも重く感じない。良くも悪くも、多々良先生のおかげである。この人は探偵役でも何でもなくて、趣味に走っているだけなのだ。
書き下ろしで収録された「古庫裏婆(こくりばば)」には、あの京極堂が登場する。シリーズ本編の次回作『陰摩羅鬼の瑕』がなかなか出ないことをファンに詫びているのか、版元から要請があったのか。色々と深読みしてしまう僕は天邪鬼なんだろうか。しかしこりゃ…何と罰当たりな。そりゃ東北地方は今でも古い因習や伝説の宝庫でしょうけれども。東北出身の僕は苦笑するしかない。
例によって固定ファン向けの作品なのは言うまでもないが、シリーズ本編を知らなくても支障はないだろう。でも、京極作品を未読の読者が読んで面白いかは保証できないな。ああ、『陰摩羅鬼の瑕』よ…。