万城目 学 08


偉大なる、しゅららぼん


2011/04/30

 『プリンセス・トヨトミ』には個人的に辛い評価をしてしまった。久々に届けられた万城目学の長編。今回の舞台は琵琶湖畔の街、石走(いわばしり)。

 石走に代々住み続ける日出家と棗(なつめ)家。反目し合う両家には、受け継がれてきた特別な「力」があった。一族の誰でも引き継ぐわけではない「力」を引き継いだ日出涼介は、湖西から石走の日出本家に呼ばれ、本家の跡継ぎである淡十郎とともに石走高校に通うことになった。ところが、棗広海までも同じクラスになり…。

 設定によると、日出家は日本で唯一、江戸時代から現存する本丸御殿で実際に生活しているという。お屋敷などというレベルではない。「力」の正体はおいおい明かされるが、想像を裏切るほどでもない。日出家と棗家の抗争がメインなのかと思ったら…。

 『プリンセス・トヨトミ』よりは楽しめたけれど、『鴨川ホルモー』や『鹿男あをによし』ほどではないかなあ。広げた大風呂敷を、うまく畳めていない印象を受ける。パタ子さんとかグレート清子とか、おいしいキャラクターも揃っているのに。

 傑作シーンを1つ挙げるなら、涼介と棗広海が白馬で竹生島に向かうところか。どこがどう凄いのかは書けないが、このシーンが期待していいかなと思わせてくれた。それだけに…。真相は意外でしたよ、確かに。でもねえ、タイトルとは裏腹に、「しゅららぼん」の偉大さが今ひとつ伝わらないのである。結局「しゅららぼん」ってどんな力?

 なお、滋賀県に石走という地名は存在しない。近江国の枕詞「石走る」から万城目さんがでっち上げた架空の街である。石田三成の居城として知られる佐和山城の遺構を用いて、石走城の城郭が築かれたという史実はもちろんございません。

 万城目ワールドの1ファンとして、「嘘」はダメなんて野暮なことを言うつもりはない。せっかくの魅力的な「嘘」を、もっと生かしてほしかった、ただそれだけ。青春ラブコメの要素も中途半端。終始軸がぶれていてこんなに長いのは、ちょっと苦しい。



万城目学著作リストに戻る