乃南アサ 34 | ||
花散る頃の殺人 |
『凍える牙』で活躍した音道貴子巡査を主人公にした、連作短編集である。
「あなたの匂い」は、何ともイヤーンな犯人像に苦笑する。変態以外の何者でもない。貴子にとっては笑い事じゃないのだが。貫井徳郎さんの『崩れる』に収録のある作品とネタがかぶっているのは偶然だろう。
「冬の軋み」。暴力に走る今時の若者と、その親。守りたかったのは子供か、それとも世間体か。貴子じゃなくても気が重くなる。
表題作「花散る頃の殺人」。この老夫婦の人生は、一体何だったのだろう。どんな意味があったのだろう。かく言う僕もさほど意味ある人生を送っているわけではないが、あまりに寂しすぎないか。
「長夜」。貴子を含めた三人三様の生き方をする女性たち(正確には女二男一)。正直に言って僕には理解しがたいが、こういう女心は女性にしか書けないのだろう。恋にトラブルは付き物かもしれないが、必要不可欠ではないと思うが…。
「茶碗酒」は、本作中唯一滝沢刑事を主人公とした作品だ。盆も正月もない刑事たちの日常にスポットを当てた、何だかしんみりとしてしまう一編。
「雛の夜」。雛とはよく言ったものだが、ほどほどにしておかないといずれ…。
文庫版巻末には、滝沢刑事と乃南さんの架空対談というおまけが付いている。滝沢刑事が乃南さんを「のみなみ」さんと呼ぶところは笑える。IMEでも「のなみ」で一発変換はできないんだよなあ。貴子のベストパートナーは、結局滝沢なのか?
音道貴子ファンなら楽しめる。しかし、改めて思うが『鎖』は残念な出来だった…。