乃南アサ 34


花散る頃の殺人


2001/08/18

 『凍える牙』で活躍した音道貴子巡査を主人公にした、連作短編集である。

 「あなたの匂い」は、何ともイヤーンな犯人像に苦笑する。変態以外の何者でもない。貴子にとっては笑い事じゃないのだが。貫井徳郎さんの『崩れる』に収録のある作品とネタがかぶっているのは偶然だろう。

 「冬の軋み」。暴力に走る今時の若者と、その親。守りたかったのは子供か、それとも世間体か。貴子じゃなくても気が重くなる。

 表題作「花散る頃の殺人」。この老夫婦の人生は、一体何だったのだろう。どんな意味があったのだろう。かく言う僕もさほど意味ある人生を送っているわけではないが、あまりに寂しすぎないか。

 「長夜」。貴子を含めた三人三様の生き方をする女性たち(正確には女二男一)。正直に言って僕には理解しがたいが、こういう女心は女性にしか書けないのだろう。恋にトラブルは付き物かもしれないが、必要不可欠ではないと思うが…。

 「茶碗酒」は、本作中唯一滝沢刑事を主人公とした作品だ。盆も正月もない刑事たちの日常にスポットを当てた、何だかしんみりとしてしまう一編。

 「雛の夜」。雛とはよく言ったものだが、ほどほどにしておかないといずれ…。

 文庫版巻末には、滝沢刑事と乃南さんの架空対談というおまけが付いている。滝沢刑事が乃南さんを「のみなみ」さんと呼ぶところは笑える。IMEでも「のなみ」で一発変換はできないんだよなあ。貴子のベストパートナーは、結局滝沢なのか?

 音道貴子ファンなら楽しめる。しかし、改めて思うが『』は残念な出来だった…。



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