貫井徳郎 26 | ||
明日の空 |
長らく賞とは無縁だった貫井徳郎さんだが、今年は『乱反射』で第63回日本推理作家協会賞、『後悔と真実の色』で第23回山本周五郎賞を相次いで受賞。今乗りに乗っていると言っていい貫井さんから、書き下ろしの新刊が届けられた。
170pは長編と呼ぶにはやや短い。遅読の僕でも1日で読み終えた。その分税込1260円と価格は抑え目。一言で述べると『慟哭』のように結末で驚かせるタイプの作品である。『慟哭』のような重量感こそないが、敢えてページ数を抑えたのではないか。
アメリカで生まれ育った帰国子女のエイミーこと栄美。高校3年生にして初めての日本暮らしに不安を抱いていたが、クラスメイトは親切にしてくれて、栄美は徐々に新生活になじみ始める。そして気になる男子と急接近していくのだが…。
PART1「In the high school」。ありがちな高校生の青春記…と言い切るにはいたずらに手が込みすぎている。障害のある恋ほど燃えるというけれど…。
PART2「At Roppongi」。急に場面は変わり、この時点では繋がりが一切わからない。因みに僕は、彼をあいつだと誤認していた。さらに増える不可思議な謎。PART2は本作の一部であると同時に、考えさせられる問題も含んでいることに触れておきたい。
PART3「In the university」。栄美が大学に入学すると、危険が迫る度に現れる人物。彼の正体は、そして彼が栄美に語った真相とは…。
ううむ、栄美の中で消化したはずの高校時代には、そんな裏があったとは。確かにすべてが合理的に説明されているが、栄美は真相を知ってよかったのかどうか。知らぬが仏とも言えまいか。知ってしまったがために、栄美は重荷を背負うことになる。
と、軽く読めてしまうだけに、色々と深読みもできる。長くしようと思えば長くできただろうが、コンパクトにしたことにより、読者の想像の余地を残した作品かな。