Overseas Sir Arthur Conan Doyle | ||
シャーロック・ホームズの最後のあいさつ |
His Last Bow |
※以下の文章では内容と背景に触れている箇所があります。
第四短編集の原題には、シャーロック・ホームズの名が冠されていない。また、第三短編集『生還』までは「ストランド・マガジン」に連続掲載したものをまとめていたが、今回は掲載時期がかなり不定期である。全8編というのもやや寂しい。
2編目の「ボール箱」だけ初出時期が古いが、本来は第二短編集『回想』に収録されるべきところである。しかし、猟奇的な演出と、特に動機面で扇情的であるとの理由から、ドイル自らの判断で『回想』から外された。ドイルの潔癖さを示すエピソードとして興味深いが、それが収録された辺りに、ドイルの第四短編集への思い入れがうかがえる。
過去二度にわたり、シャーロック・ホームズ・シリーズの打ち切りを表明してきたドイルだったが、読者に根負けして翻意してきた。数年に一度の掲載ペースだったこの当時、読者が新作短編を渇望していたことは想像に難くない。しかし、ドイルは今度こそ、シャーロック・ホームズの口から「最後の挨拶」を語らせ、シリーズを打ち切ろうとした。
以下、各編に簡単に触れておく。
初出時は前後半に分けて掲載された。初期長編『緋色の研究』『四人の署名』を彷彿とさせる怪奇的展開。シャーロック・ホームズに力量を認められた警部は彼一人だろう。
「贈り物」もさることながら、シリーズには珍しいドロドロ愛憎劇に苦笑する。シャーロック・ホームズが最も嫌いそうな動機である。だから『回想』から外されたのか。
一切姿を見せない下宿人。背後にある恐るべき犯罪組織とは。ネット時代の目から見ると、情報伝達の手段がむしろ新鮮に感じられる一編。
国家の機密に関わる重要文書が盗まれるというパターンは他にもあったが、今回は兄のマイクロフト直々の依頼である。トリックに注目したい力作。
そのまんまである。多くは語らない方がいいかな…。
数少ない、シャーロック・ホームズがしてやられそうになったエピソードの一つ。ああ間一髪。モリアーティ亡き後も悪人はあの手この手を繰り出すのだった。
完全休養を厳命され、療養のためにロンドンを離れたホームズとワトスンだったが、結局は事件に巻き込まれ…。トリックものとしては反則気味だが、先駆的でもある。
時は1914年8月2日、第一次大戦勃発の日。ワトスンの一人称ではなく三人称で書かれた、ホームズの本当に最後の事件。"There's an east wind coming, Watson."という台詞が最後の挨拶になるはずだった。
しかし、読者の熱は冷めることはなかったのだった…。
★印の作品を除き、原題には"The Adventure of..."が付く。
邦題は創元推理文庫版による。