瀬名秀明 共著3 | ||
瀬名秀明 奇石博物館物語 |
本書は、NHKで放映されているシリーズ「課外授業 ようこそ先輩」の瀬名秀明さんが先生を務めた回、「博士になって小説を書こう」の本放送および取材VTRを基に本にまとめたものである。『小説と科学―文理を超えて創造する』は高校生を相手にした講演集だったが、今回は瀬名さんの母校の小学生が相手だ。
最初に言っておきたい。本書は瀬名さんのファンかそうでないかを問わずに、一人でも多くの方に手に取ってほしい一冊だ。発行部数があまり多くないとは思うが…。
「博士になる」とは、もちろん「博士号を取る」という意味ではない。興味を持ったことを徹底的に調べてみよう。それが瀬名さんの教えであり、ご自身の創作手法でもある。瀬名さんは子供たちを様々な石を集めた「奇石博物館」へと導く。どれか一つ気に入った石を選んで、詳しく調べてみよう。石の博士になって、お話を書いてみよう。
課外授業一日目は、奇石博物館の見学だ。ここで面白そうな石を一つ選び、スケッチする。学芸員に質問を重ねる。そのプロセスはもちろん、ガイドブックとしても非常に面白い。物言わぬ石の世界は、奥が深いのだ。二日目は、図書室でさらに詳しく調べる。その成果を、選んだ石を魅力的に展示する博物館の絵として完成させる。そしていよいよ物語を書くのだが、それは冬休みの宿題となる。
冬休みが明けて、課外授業三日目。いよいよ子供たちの作品発表となるが、これが実によくできていることに驚かされる。一つの石から物語を紡ぎ出す、この想像力。そして、それを引き出す瀬名さんの手腕。優れた研究者は、優れた先生なんだと実感する。瀬名さんご自身が書いた掌編も収録されているが、軍配は子供たちに上げておこう。
瀬名さんの最新長編『八月の博物館』は、売上げは芳しくなかったらしい。確かに作風は大きく変わったが、あの作風こそ瀬名さんに合っているんじゃないか。本書を読んで、僕はそう思った。『パラサイト・イヴ』はもう過去の話。子供たちに説いたように、瀬名さんもジャンルに捕われずに自由であってほしい。かつて子供だった一読者として、切に願う。