殊能将之 06 | ||
子どもの王様 |
殊能将之さんの新刊は、小野不由美さんの『くらのかみ』とともに、かつて子どもだったあなたと少年少女のための"ミステリーランド"の第一回ラインナップとして刊行された。
『黒い仏』以降、殊能さんの作風はすっかり「あの」方向に向かってしまった。今ではデビュー作『ハサミ男』の方がむしろ異例だったのかと思えてくる。正直、このまま突っ走るのかと危惧していたのだが、本作ではがらりと路線を変更してきた。
ある団地に住むショウタと、ほとんど学校に行かずに本ばかり読んでいる親友のトモヤ。トモヤは「子どもの王様」に怯えていた。「子どもの王様」は、子どもを穴蔵に閉じ込め、召し使いとしてこきつかうというのだが…。
本作の全編を通じて感じたものは、『くらのかみ』とはまた違う懐かしさである。朝は集まって集団登校する。くだらないお笑い番組の真似をしてふざけ合う。ヒーローものの話題で盛り上がる。口うるさい大人の注意にむっとする。誰もが過ごした子ども時代そのものだ。これまでの作風が作風だけに、意外や意外。
また、ショウタの家庭が母子家庭だったり、家族の物語という一面も見受けられる。母を想い、親友を想うショウタの優しい心根。「子どもの王様」の謎をメインに据えながら、サイドストーリーの数々も見逃せない。
というように読みどころ満載なのだが…おいおいこの結末はいいのかよ??? 殊能さんご自身、本作が「子ども向けっぽくない」と言ってはいるものの…。結果的に、この結末はトモヤの複雑な心理を際立たせているのだが。
個人的には結末だけは残念だったが、巻末に掲載された「わたしが子どもだったころ」は注目に値する。そう、彼もまた、僕らと同じ子どもだったのだ。気になるのは、次に講談社ノベルスから刊行される新刊である。また戻ってしまうのか、それとも…。