鈴木光司 08


ループ


2000/06/05

 読書とはまったく無縁の学生時代を送った僕が、読書をするきっかけとなったのは実は本作である。ある日、映画『リング/らせん』のポスターを見て面白そうだと思った僕は、映画館に足を運んだ。時を同じくして、完結編として本作が刊行されていた。かくして映画を観終わった僕は、角川書店の策略通りに書店に向かったのだった…。

 僕にとっては記念すべき作品であろう本作だが、今思い出しても色々と言いたいことはある。単独作品として読めば、それなりに楽しめる作品ではあるだろう。しかし、『リング』シリーズの完結編として読むと、大いに疑問が残る。

 ネタばれになるので詳しくは書かないが、本作は『リング』、『らせん』の流れを根底から覆している。前二作を既読の場合は納得がいかないだろうし、未読の場合はさかのぼって読む気が失せるだろう。

 鈴木さんご自身、『らせん』を書いた時点で本作を書くことは想定していなかったし、『リング』を書いた時点でも『らせん』を書くことは想定していなかったと述べている。想定外の続きを書くことは、シリーズものの宿命ではあるのだが…。

 肝心のストーリーの方は、つまらないとは言わないが、どうしても引っかかる点もある。主人公の二見馨君のこれまでの人生は一体何だったんだろう? 彼の出生にどんな秘密があろうと、なぜ彼一人が全世界を救う責務を負わねばならないのか? なぜ君は、そんなに達観できるんだ、馨君…。

 批判ばかり書き連ねてしまったが、僕は本作を読んで以降、色々な作家の作品に手を出していった。僕を小説の世界に導いてくれたことには、今でも感謝している。しかし、映画化はやめておいた方がいいだろう。



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