鈴木光司 27


タイド


2013/09/13

 またまた出ましたリングシリーズ。条件反射で手に取った。前作『エス』はそれなりに楽しめたのだが…。辻褄合わせならまだ許せる。本作は辻褄合わせですらない。

 シリーズの世界観が発展したという肯定的な声もあるが、僕には一応収束した作品世界をわざわざ引っかき回したようにしか思えない。今更そんな新事実を出すなっての。は??? 高山竜司貞子の弟だった??? (反転してお読みください)

 リングシリーズというより、『エッジ』のテイストに近い。日本国内ではほぼ無視された『エッジ』は、米国ではシャーリイ・ジャクスン賞を受賞した。インタビューなどから察するに、鈴木さんご本人は『エッジ』への思い入れが深いのだろう。それは別に構わないが…。

 なぜリングシリーズと融合させようと思ったのか。元々単純明快なホラーだったが、続編が出る度に複雑化し、かといって複雑さに見合う驚きもなく、消化不良に終わってしまう。本作に至り、とうとう無駄に複雑化しただけになってしまった。この結論のためだけに、読者はとても遠回りさせられていたのかと思うと、脱力するよ…。

 『エス』は最初から映画化前提で書かれただろうから、本作の方が鈴木さんが書きたいことを書いたのだろう。『エッジ』のように。それだけに、読者を置き去りにしている感も強い。固定ファン向けに出したのだろうが、固定ファンでもこれは辛い。

 まったく乗れないまま読み終え、エピローグに至る。あの件が有耶無耶になっているのはともかく、また続きをにおわせるような終わり方…。正直、このシリーズと今後もつき合い続けるべきか、僕は岐路に立たされている。どうせ買うかもしれないが…。

 最後に。本作の時代設定は1994年だという。『エス』ではネットネタなど現代性も取り入れていたが、時間が大きく逆戻りしたことになる。いくらでも間のエピソードが書けそうだ。このシリーズにゴールはあるのか。そして目指す先はどこだ。



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