鈴木光司 26


エス


2012/05/19

 まさか打ち止めと思っていた『リング』シリーズの続編が刊行されるとは。本作は、現在公開中の映画『貞子3D』の原作に当たる。企画に上がったのは映画が先か、小説が先か。この期に及んで…と思わないことはないが、個人的に鈴木光司さんとこのシリーズに恩義がある僕は、読まないわけにはいかないのだ。

 映像制作会社勤務の安藤孝則は、ネット上に公開された動画の解析を依頼される。それは首吊り自殺を中継したものだったが、どこかが不可解だった。その動画を、孝則の婚約者である高校教師の丸山茜が見てしまい…。

 お約束のような設定だが、ビデオテープがキーアイテムだった『リング』の初版刊行から21年も経つと、さすがに時代の変化を感じる。デジタルデータはビデオテープのようにダビングで劣化せず、ネット上に流出したらコピーされ放題。さぞかし大パニックが…。と思ったら、孝則と茜の極めて個人的な物語であった。

 簡単に言ってしまうと、『らせん』と『ループ』の間に位置する作品である。第2.5作とでも言おうか。序盤は既刊作品との繋がりがわからないが、終盤に近づくにつれて、薄れていた『リング』『らせん』の記憶が呼び起こされる。ああ、そういえばそうだったよなあ。

 『バーズデイ』も含め、残された謎がとりあえず説明される。なるほど、よく考えられている。ネット上では、ただの辻褄合わせという手厳しい声も聞かれた。正直一理あるとは思う。しかし、たとえ後付けにしてもよく繋げたものだ。

 そもそも、『らせん』を書いた時点で辻褄合わせは始まっていた。本作の方が『ループ』より先に刊行されていれば、シリーズの評価は違っていたかもしれない。『ループ』という荒業は、ネットが成熟した現代の方が抵抗が少ないだろう。

 鈴木光司は永遠に『リング』の呪縛から逃れられない。もうあきらめてください。



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