辻村深月 12 | ||
光待つ場所へ |
青春小説の名手・辻村深月さんの作品の中でも、前を向く意思を強く感じる作品集だろう。『光待つ場所へ』のタイトル通り、彼は、彼女は、もがき、悩み、乗り越える。
「しあわせのこみち」。清水あやめが大学の課題で描いた絵は、自信作だった。しかし、田辺颯也が製作した3分間の映像に、圧倒的敗北感を味わう…。颯也の言葉を表面通りに受け取ると、超自信家の鼻持ちならない奴という印象を受けるが、明け透けすぎていっそ心地よい。自信家ならではの挫折も、彼は知っている。2人とも難儀な性格だねえ。眩しいほどに。なお、あやめは『冷たい校舎の時は止まる』に登場している。
ノベルス版に書き下ろしで収録された「アスファルト」。これまた『冷たい校舎の時は止まる』に登場した藤本昭彦が主人公だが、かなり印象が違っている。とある友人曰く、「八方美人」なのだという。僕は学生時代、昭彦のように男女問わずうまく付き合える人が羨ましかった。今にして思えば、O君も人知れず鬱屈を抱えていたのか。
本作の一押し、「チハラトーコの物語」。モデル事務所に所属し、ちょっとは顔が売れた存在のトーコ。小さい頃から、彼女の人生は虚飾に満ちていた。事実に嘘を織り交ぜ、クラスメートに語る。いいじゃない、みんな喜ぶから。誰も傷つかないから。トーコという人物は、強烈な自負を感じる一方、目指す先が見えず、困惑させられる。そんな彼女が、なぜ手を差し伸べたのだろう。今後も嘘つき道を極めるか、トーコ。
「樹氷の街」。合唱コンクールというテーマだけなら中田永一氏の『くちびるに歌を』に似ていないこともない。伴奏を引き受けたものの、さっぱり上達しない倉田梢。業を煮やした天木が招聘(?)した最終兵器とは。いつの間にやら中心人物が「彼」に移っているが、梢も救われたんだよね? 余談だが、作中3年生の課題曲になっている『大地讃頌』は、僕が中3のときの我がクラスの自由曲だった。懐かしいねえ。
「チハラトーコの物語」と「樹氷の街」は、それぞれ『スロウハイツの神様』と『名前探しの放課後』のスピンオフ作品らしい。早く読めってことですかね。その他にも、あの作品のあの人物が出てきたり…。才能で勝負する若者たちに、光待つ場所はあるか。