ファンをとっかえよう!

 1995年のおわりころ、まだ心が真っ黒に染まる前・・・まだLC IIIを使っていたころのことです・・・

会社でバックアップメディアを与えられていなかったぼくは、自宅から持ち出しでサイケストのリムーバルハードディスクを会社の自分用8100/80につないで使っていましたが、そのドライブからはだんだんと異音がするようになってきました。ぼくの心のなかに、日々だんだんと不安がつのってきます。

「いやだな・・・壊れちゃうのかな・・・?」

いまでこそジャンク屋で500円くらいに成り果てたサイケスト270ですが、ぼくが買ったときは最先端のリムーバルメディアで、ドライブ本体が、ええと・・・五万円くらいだったかしら・・・でもそのときMOドライブはまだ230メガでドライブ本体が10万円とか。その時代にその値段!初期投資費用の点ではゼんぜんパフォーマンスが上だったのです!レバーを、回転が安定するまで押しつづけるサイケスト独特の操作と、安定するまでのスピンドル音(当時はまだ、スピンドルなんて言葉はミシン用語だと思っていた)が懐かしく思いだされます。なによりかきこみ速度がMOよりダンチではやい!

それでも買って半年もいかないで壊れちゃったら元も子もありません!

ディスクの読み込みとかには異常がありません。

ドライブ本体に耳を近づけてみました。変なガタガタいう音は、ディスクが回転している辺りではなく、もっと後ろの方からきこえてきます。そこには筐体内を換気するためのファンが回っていました。

「このファンかもしれない・・・」

「分解してみたら?」

さっそく匂いを嗅ぎつけたのでしょう。トホホ妖精が現れました。いきなり分解などと・・・!

「やだよ!怖いもん。」

「ちょっとネジ外せばいいだけじゃん!ね、ちょっとだけ!」

「だって保証が・・・」

「保証保証ってさわぐやつはウザイって吠えてたのはだれでしたっけ?」

「・・・」

ぼくは今のような真っ黒な心に染まるまえに、もうそのケがあって、同僚とかが「でも安心だから・・・」とかいってるのを聞くたびに「うぜえな!」とか思っていたので、ここでひきさがると、自分も「うざい」ことになってしまいます・・・ただでさえ希薄なアイデンティティーが、さらに薄れてしまいます。しかもアイデンティティーがないまま30代に突入してしまう(当時)という焦りもあります!ここはなにかひとつ、殻を破っておかなくては!あ、こうして言葉で飾るとなんかかっこいい!でも一言「ひねくれもの」で片づいたりして・・・なんであんなに焦ってたかな・・・とほほ・・・

サイケストのケースは、今見てみると、ありふれた3.5インチの外付スカジーケースなのですが、当時の目で見ると、もうそれは完全なハイテク精密機器!傾けるのもこわかった!

「ネジは、ああ、ゴム脚を外すのかな?」

ひとたび分解を始めてしまえばもう心は平常心。ケースを開けてしまいました。ただ、アイディー設定スイッチ用ケーブルとスカジーケーブルは怖くて外せなかったけど。

「へえ〜、ファンてこうついてるんだ・・・」

そのとき、妖精が口をはさみました。

「ファンにラベルがついてる。そこの数字とおんなじファンが売ってるかも・・・」

ぼくはラベルの数字を必死に一言一句のこさず書きうつしました。

それから筐体を元通りにして、つないで、動いた!ああ、よかった。

当時はぼくの関心は専らモデルガンで、禁断の魔都アキバはまだその魔力を完全に発現してはおらず、なお悪いことに、入ったら帰れない暗黒の前人未到の地として、近寄る勇気も持っていませんでした。うわ、おっかねえ!そのわきの「わかりやすい」御徒町がぼくの心のメッカでした。

で、御徒町にゆく途中でふらりとアキバの地に立ちよったぼく。

「こ、怖くなんかないぞ!ちょっと魔の知識が多くて知識にきびしい人たちがいるだけじゃないかかかか・・・」最後のは歯の根が合っていない音。

でも、やっぱりラジオデパートとかに入る勇気はありません。なるたけ入口が開きっぱなしで、店員さんがレジにしかいなくて・・・そもそもちゃんとレジがあって・・・セルフサービスっぽいお店は・・・しかも店に入るまえに外から目あてのファンが見つかるといいな・・・なんて、おそるおそるアキバの裏の方を歩きます。今から思うと、なんて憶病だったのだろう・・・

「ア、あった!」

外れの方の角っこのお店の窓ごしに、黒くて四角い形のものがならんでいるのが見えました。勇気を出してお店に入ります。こういうとき、扉のないお店は入りやすいので好き。

「ええと・・・大きさは・・・これくらいだったな・・・」

ひそかにもってきていたメモを盗み見します。

「12ボルト・・・500ミリアンペア・・・SUNNON?」

「それはメーカー名!電気のデータが同じならきっと回るよ!ファンだから、きっとデータの書き込みとかには絡まないよ!」

トホホ妖精に突っ込まれてしまいました。ごもっとも。棚にも「9ボルトあれば回ります」とか書いてあります。少し安心。で、12ボルトのを買いました。1000円。当時はそんなに高いと思わなかったです。

で、翌日、会社で、みなが帰ってしまうのを見計らって、おもむろにハンダごてをとりだし、再びサイケストドライブのケースを開いて、問題のファンをとりはずします。電線をニッパでちょんぎりました。

「プラスとマイナスを間違えないでね。」

「色がおんなじ同士でつなげばいいんだよね・・・」

おんなじ色の線同士を撚りあわせ、ハンダで付け、絶縁テープでまきました。新しいファンを筐体にネジどめして、もとに戻します。つなぎ直して、電源オン!

「わあ!回ってる!」

筐体の後からは涼しい風が!

「静かになったね!」

いわれてみれば、今の音が停泊中のロサンゼルス級攻撃型原潜だとすると、以前の状態は時速50ノットでつっぱしるアルファ級って感じ。いや、両方ともホントに聞いたことないけど・・・

味をしめたぼくは、その後、外付ケースを買うたびにファンを取り換えなくては気が済まない身体になったとさ。

 

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