クアドラ650編

1996年の夏は、今まで言い値でメモリ−を供給していたベンダ−たちのバブル時代の「おわりのはじまり」でした。今まで32メガ10万円近くしていた72ピンのシムの価格が、一挙に四分の一くらいまで下落したのです。

会社の同僚の話や、ショップの広告などでこの事実を知ったぼくの耳にトホホ妖精がささやきます。

「すごいね、半年前にあんたが買った32メガシムの値段で100メガ超えちゃうよ!」

「でも、630買ったばっかだし、630にはシムスロットが一個しかないし...」

「中古で100メガ載るのを買っても20万で済んじゃうよ!100メガ載った68040マシンって、16メガつきの8100なんかより安くてパフォ−マンスも変わんないんじゃん?」

次のとある土曜日、ぼくはとりあえず5万円握りしめて禁断の呪われた地、アキバに立っていました。肩にはご多分に漏れずトホホ妖精。

「まず秋○館?」

当時秋○館はアキバの地でも一二を争うとんがったマック専門ショップで、当時としてはめずらしい一般では買えないマック部品を数々供給していたのです。でもぼくの答えは違いました。

「いや、ドスブイのお店。」

630の改造にあたって、スカジ−のことを調べるために、ジャンルを問わずその手の雑誌を読みあさってたので、シムの値段もドスブイのお店の方が安いということを掴んでたんです。

「え〜!なんで!アップルのお店で買ったほうが安心だよ!」

「おんなじ72ピンだから動くよ。アップルがわざわざオリジナルなことやるわけがない。利益率が下がるじゃん。」

今でこそメモリの種類は同じ168ピンでも5ボルトありの3.3ボルトの、PC100のPC133のと、百花りょう乱バベルの塔ですが、昔はせいぜいパリティ用のチップが一個載ってるか載ってないかくらいのものだったので、ハ−ドディスクでの経験から、ぼくはメモリ−もやはりPCもマックも関係ないんじゃないかとにらんだのです。

回転寿司の上の階の自作ドスブイのお店に、おっかなびっくり入りました。

「うう、こわい!」

お客さんがみんなすごいパソコン上級者に見えます。店員さんもみんなスパルタンなスペシャリストに見えます。ドスブイシロウトのぼくは一発で見破られてタコなぐリにされてお金だけ取り上げられて蹴りだされるんじゃないかとすごく不安になりました。もちろん、ただ単にぼくがあがってただけで、決して怪しい雰囲気のお店だったわけではありません。今ではもうへっちゃらなんですけど、当時としては怖かったんです。

恐る恐るカウンタ−のガラスケ−スをのぞき込むと、ありました。「32メガ72ピン60ナノセカンド(パリ無):25,000円」これだ!

「あのう、この、パリなしの32メガのシムください...2本」

商札をそのまま読みました。自然な注文のしかたができたので一安心。店員さんも普通に返事してくれました。

「32メガパリなしのものを2本ですね?」

嬉しいことに「ご使用の機種」も聞かれませんでした!やった!お金を払って外にでます。

「マックかわないの?先にメモリ?売ってなかったらどうするの?」

「ううむ、...き、きっと売ってるよ、ほ、ほら、いま、みんなマスコミと販売代理店に躍らされてパワ−マックに買い替えてるし...」

などといってみたものの、もしも手ごろな値段の100メガマシンがなかったら、ぼくは使わないメモリのコレクションを64メガ分も抱えることになります。さっきのお店で勢いで100メガ買わなくてよかった。などと思いながらソフマップの中古扱い店へ行きました。

「ああ、いっぱいあった。」

うれしいことに、2年前の夢のマシン、クアドラやセントリスが10万円以下でごろごろしています。

「クアドラ650がいい。840はまだ高い。」

きれいそうなやつを選んで店員さんにお願いしました。

「箱ないですけど...」

当時はなぜか保証のことばかりみなの頭にあったので、一般に箱は必須といわれていたのですが、ぼくはリンゴマ−クがついてるだけのかさばって汚いボ−ル箱など最初からもらう気もありませんから「いいですよ。」と答えました。

カウンタで動作確認させてくれたので嬉しかったことを覚えています。新品だといきなり包んで終わりですからね。で、ちゃんと動いたのでお金を払ってもって帰りました。

家に帰ってメモリを挿して、起動。「このマッキントッシュについて」を見ると、ちゃんとメモリ容量が「73×××」とかになっていたので大満足。会社でウン百万だして買ったクアドラ800や、8100よりも大きなメモリ環境を手に入れたのです。もう、雑誌とかのインタビュ−で「メモリは最低100メガ以上は必要ですね」などとのたまっているキザなクリエ−タに「フン、ブルジョアが!」などと経済的なコンプレックスを持つこともありません!次の週には悲願の100メガ環境オ−ナ−になることができたのです。ううん、たまらん!

「でも、ブイラムも増やさないと描画環境がプアだね。」

トホホ妖精はぼくにブイラムを買わせようと思ったようです。ところがそうはイカのなんとやら。

「次はグラフィックボ−ドじゃあ!」

630での経験から、ぼくはアップル純正のグラフィック回路にかなりの不信感を持つようになっていました。また、インタウエアのグラフィックボ−ドは、会社で使っていた某当時ブランド品の高級なグラフィックボ−ドにくらべ性能でまったく見劣りせずに、しかも大幅に安かったので、それを載せてみたかったのです。ぼくの当時の目標は、「会社の言い値で買わされた腐れマシンに(安上がりに)追いつき、追い越せ」でしたから。

今度は秋○館の出番です。目当てのグラフィックボ−ドはかなり品薄な感じでしたけど、どこよりも安い値段でそこにありました。(まあ、DOS/V機の値段にはかないませんでしたけどね。)

グラフィックボ−ドを挿された650は20インチフルカラ−モ−ドマシ−ンに変身。おまけにビデオキャプチャまでできるようになったのですが、この性能は630の方が上、というか、よくできていたという感じ。さすが後発。

・・・

そんな感じで、それから二月ほどは満足でした。でも、秋のとあるブル−な午後、ぼくはたまらなく落ち込んでいたので、買い物で鬱を飛ばそうと思って、アキバへ出かけました。なんとなくヤケになっていたので、ハ−ドディスク系の買い物をするつもりでした。

「ワイドスカジ−カ−ドってなに?」

「普通のスカジ−よりもピン数の多いケ−ブル規格のスカジ−機器が使えるようになるための増設カ−ドだよ。」

トホホ妖精の質問に、ぼくは得意になってハ−ドディスクツ−ルキットの取説を読んで得た知識でもって知ったかぶりをしました。

「じゃ、あの、トンカチのマ−クのスカジ−カ−ドって、ハ−ドディスクツ−ルキットの会社のカ−ドなんだね。」

彼女が指さす先に、「FWB SCSI JackHAMMER」と書いた箱がありました。

「ううむ、考えてみれば、スカジ−カ−ドの世界というのも未知の領域じゃあ。手を伸ばしてみるのもいいかもしれぬ。」

「言葉づかいが戦国武将みたいだよ。」

気がつくと、ぼくは小わきにスカジ−カ−ドの箱を抱えて、空のお財布をもって電車に乗っていました。

「ワハハ、やっぱりはええや!」

さっきまでの憂うつはどこへやら、ぼくはご機嫌です。だって、こないだ買って純正の内蔵500メガから取り換えたばかりの1ギガ起動ディスクをもうお払い箱にして、2ギガのワイドドライブから起動するようにしたクアドラ650は、もう会社の8100よりもディスクに関しては性能が上っぽくっなったんです。

「もう、スカジ−バスもアップル純正はいらねえや!」

さようならアップル!ロボコップにとどめを刺そうとしているクラレンスの痛快な気持ち(映画では彼は一瞬後に地獄を見るのはお約束なんですけど。)を味わうことができました。

ドライバの類も機能拡張からことえりを始めとしたいらない部品をすべて取り除きました。ううん、こないだまで脅えていただけに、反動は強烈でした。テルミド−ル!ってかんじ。

さらに調子に乗ったぼくは、スピ−ディ−アクセラレ−タというものを買ってきました。

これは、基板上のクロックオシレ−タというコンピュ−タ−の動きのリズムを作ってあげる部品を乗っ取って、もっと速いリズムで回そうという、いかにもアメリカのエンジンチュ−ンナップみたいな代物でしたが、安かったしおもしろかったのでつけました。

ちゃんと回ったので、クアドラ650/40と名付けてあげました。でも、それで終わり。基板にハンダ鏝を当てて改造する情報などがあったLCシリ−ズに較べて、ちょっと物足りないマシ−ンでした。

でも、パワ−マック7300を買うまではぼくの最速のマシ−ンでした。

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